秋になると、栗を使った和菓子が店頭に並びます。栗羊羹もそのひとつ。蒸し羊羹と練り羊羹の2種類があります。蒸し羊羹は、生地を小麦粉でつないでいるので、栗と生地の間に糖度や水分の移動が少なく、比較的容易につくることができます。
練り羊羹の場合、生地は寒天と水分。砂糖を使わない栗をここに入れると、生地との間で水分移動が起こり、栗の表面が固くなってしまいます。そこで、栗は糖蜜で柔らかく甘く煮て、糖度を同じ条件にしてから入れることで、おいしくいただくことができます。
糖蜜に漬け込んだ栗は季節にかかわらず手に入るので、練り羊羹はいつでも食べられますが、蒸し羊羹の場合、やはり栗そのものの香りが大切。生栗を使うので、秋そのものという和菓子ですね。
おはぎも、秋の和菓子。もともとは店で売るものでなく、家でつくってお世話になった方々に配るものでした。米粒をひっかいたようにつぶしてつくった餅なので、古くは〝掻餅(かいもち)〟と呼ばれていました。
〝おはぎ〟の名の由来は、女官言葉の〝萩の花〟や〝萩の餅〟。小豆を炊いてつぶすと、小豆の皮が光って残ります。餅を包むと、小豆の皮の散ったさまが萩の花が散ったように見えることから、女官たちはそう呼んだのです。
諧謔(かいぎゃく)が好まれた江戸時代、おはぎはいろいろな呼ばれ方をしました。餅をつかず、隣家に気づかれないので〝隣知らず〟。〝北窓(きたまど)〟や〝夜船(よふね)〟という異名もありました。北には月が出ない。つまり〝つきがない〟から〝つかない〟。夜船は、夜は暗くて船着き場に船が〝つかない〟という意味からきたそうです。
こんな風に名前がいくつもつけられるほど、おはぎは広く親しまれました。昭和の時代まで家でつくることも多く、まさに庶民の和菓子といえると思います。

藪光生(やぶみつお)
和菓子の文化を研究し、講演や教育活動を精力的にこなす。全国和菓子協会専務理事、全日本菓子協会常務理事、日本菓子教育センター副理事長も務める。著書に「和菓子」「新 和菓子噺(ばなし)」など。