夏らしい和菓子といって思い出すのが、餡を葛で包んだ〝葛饅頭〟です。ピンクの餡なら〝水牡丹〟。うぐいす餡を包めば緑が透けて、また風情があるものです。
葛饅頭は、いかにも夏の和菓子ですが、冷やしてはいけません。葛はでんぷんなので、冷やせば冷やすほど硬くなり、おいしくなくなってしまいます。舌で冷たさを味わうのではなく、目で涼しさを感じとるのが、夏の和菓子の特徴です。
もうひとつ、水羊羹も夏らしい和菓子。羊羹の歴史は室町時代にさかのぼります。当時、茶の湯では〝点心〟、一点に心を添えるという意味の料理が出されました。一に羹(あつもの)、二に饅頭、三に麺類といわれ、いまの懐石料理ほどではなく、空腹を癒してくれるような、ちょっとした食事です。
羹は48種。そのひとつに羊の肉を使ったものがありました。ただし、日本は仏教伝来から獣肉は食べないという風習があったため、羊の肉に似せて小豆や小麦を練ったものを入れました。その具だけを取り出し、お菓子として食べるようになったのが、羊羹の始まりです。
その羊羹に砂糖と寒天を用いてギリギリつなぎとめておけるくらいたっぷりの水でつくったのが、水羊羹。姿もみずみずしく、口どけもよくなります。
水羊羹も、葛饅頭と同様に冷やさず食べるのがよいでしょう。もてなしの心として、たとえば冷やした〝ぎやまん〟の皿に葉を一枚敷き、水羊羹をのせる。水羊羹そのままのおいしさを味わいながら、涼しさを演出できます。
話は変わりますが、夏用に絽(ろ)や紗(しゃ)のネクタイがありますね。本人はどんな生地でもネクタイを締めているので暑いでしょうが、見た人は「涼しげだな」と思う。目で〝涼〟を感じとる。そうした日本人独特の〝もてなし〟の感性は、和菓子にも通じていると思います。

藪光生(やぶみつお)
和菓子の文化を研究し、講演や教育活動を精力的にこなす。全国和菓子協会専務理事、全日本菓子協会常務理事、日本菓子教育センター副理事長も務める。著書に「和菓子」「新 和菓子噺(ばなし)」など。