
その江戸気質から育まれた江戸料理を、米村では時流に合わせてアレンジしてきました。「参勤交代のおかげで全国からさまざまな食材が持ち込まれ、食の豊かな街でした。何でも揃う、いまの東京と同じです」と富田氏。京都の公家、大阪の商人に対し、江戸は武家文化。料亭は接待に使われ、華やかでおいしい料理が求められたそうです。それはいい食材を忌憚なく使う、いまで言う創作料理。たとえば、魚の身をねじって串に刺し、卵の黄身をぬって焼く、太刀魚の蝋焼。当時としてもかなり斬新な調理法でした。「残った白身も使わない。節約をよしとする日本的な常識からも外れています」。型破りで、自由闊達な江戸っ子の心意気。その意志を受け継ぎ、富田氏もまた型にこだわらず、繊細で印象的な新しい江戸料理を生み出しています。
ヤマサしょうゆとの付き合いは、米村に入店して以来のこと。「いまは地方のあらゆるしょうゆが手に入るので、新しい味を試すこともあります。しかし、ヤマサに代わりはありません」。味を合せて数日寝かせても、「こうなる」という方向性を読めるのがヤマサ。「いいしょうゆは他の調味料を使わなくてすむので、素材の味も料理人の感性も活きる」と言います。しょうゆは、だしと同じく料理のベース。「土台としてゆるぎないもの。信頼しています」。
「料理人は素晴らしい職業、花形です。まずは基礎をしっかりと学ぶこと。そして、自分がどういう料理人になりたいかがスタート。自分のやりたいこと、進みたい方向を強く意識することが大切です」と富田氏。基礎が盤石であれば、何にでもチャレンジできる。江戸料理も基礎にしょうゆがあったからこそ、大きく花開いたのでしょう。
「江戸割烹 米村」
東京都中央区銀座7-17-18
電話:03-3541-1723
●江戸割烹 米村/料理長 富田正藤 氏