盆は、神に捧げる供物を運ぶ道具として誕生しました。古代、食物を置くためにまず「葉」が使われました。収穫を祝う新嘗祭で、天皇が神へ捧げ物をする際に使われたのも、葉皿、葉盤だったようです。その後、削る、彫るなど、木の加工が次第にできるようになり、木皿、木盤(現在の皿)などが登場しました。さらに用途によって細分化され、食物を載せて持ち運ぶ「盆」が作られるようになりました。600年頃の聖徳太子の時代、神社で鏡餅など神饌(神に捧げる供物)を載せて運ぶ、三方が作られました。それまではやはり、葉を重ねて使っていたようです。同じ頃、中国へ送られていた遣隋使が帰国し、箸など多様な道具を持ち帰りました。それらを日本流に取り入れ、さまざまな作法が発達したようです。
盆の素材にはよく檜が使われます。下地は生木をじゅうぶん乾燥させて作りますが、それでも木に動きが出ます。昔は百貨店に良い盆を置くことを職人は嫌ったといいます。冷暖房で木がゆがみ、形が変わってしまうからです。また良い盆は傷が付きにくく、火にも強いのですが、紫外線には弱く変色することがあります。業務用にはベニヤ板が、反りが少なく平らで使いやすいようです。
盆には、木を保護するために漆が塗られます。塗って乾かす作業を数回繰り返し、最後に上塗りをして、下地のしっかりした漆器となります。漆には無数の細かい気孔があるため、木の呼吸を邪魔しません。冬場乾きにくく、高温多湿な夏に乾燥するのが特徴です。燃えにくい性質もあって、神社の柱などに漆が塗られたのも、配色だけでなく防火対策として重要だったのでしょう。
盆と椀は、高級品も安物も、見た目はほとんど同じです。道具は使ってはじめて良さがわかるもの。壊れて、漆を塗り替えるとき、ようやく素地の良さがわかるのです。
奥田晃一(おくだこういち)
東京合羽橋商店街振興組合副理事長。かっぱ橋道具街で昭和8年から料理道具店を営むオクダ商店三代目。漆器、竹製、木製の道具を広く扱い、料理のプロからの信頼も厚い。