土地の産物や文化を背景に生まれてきた郷土料理。冠婚葬祭や四季の行事・仏事の寄合などで共に食され、地域に根づいてきました。その中からユニークなものをご紹介します。
「オハウ」はアイヌの言葉で汁物のこと。魚や肉、野菜に野草などを加えて塩だけで味付けをした、具沢山のスープです。私はアイヌ民族博物館がある北海道南部の白老町で「オハウ」をいただきました。鮭や鹿、熊に、臭み取りになる行者ニンニク、ユキザサといった野草など、土地でとれる食材を使います。特に鮭は重要で、カムイチェップ(神の魚)と呼び、その年最初にとれた鮭は集落で分けて食べる習慣もありました。さらに冬に向けて干して燻し、伝統食サッチェプ(燻製)を作ります。北海道の自然や信仰と密接に結びついたアイヌの食文化。食糧が乏しく厳しい冬に命を落とした明治の開拓民たちが、もしアイヌの食の知恵に触れていたら無事でいられたかもしれない、とも言われています。
「とふめし」の名は豆腐めしが由来で、丹波篠山、大山地区の郷土料理です。豆腐、塩鯖、うすあげ、にんじん、ごぼうをしょうゆとみりんで味付けし、炊きあがったごはんに混ぜ込みます。若狭からの鯖街道には篠山を通る道もあったため、鯖が手に入りました。地域の寄合い会場になった家の奥さんが大勢の食事を用意するのに苦労する様子を見かねた長老が、「おかずとごはんを混ぜてしまえば良い」と言ったことから生まれた料理だとか。大山は山間部のため冬になると仕事がなく、「とふめし」と藁草履を下げて出稼ぎにいった時代もあったそうです。現在では運動会や冠婚葬祭の際に作られています。また、地元のおばあちゃんのレシピを元に商品化した無添加の具が販売されて若い主婦の間でヒットし、地域おこしに繋がっています。
地域の寄合いの中で受け継がれてきた郷土料理。いまその場が消えつつあります。和食が世界から注目されているいま、時代に合った新しいつながりの中で食べ継がれていくことを願います。

清 絢(きよし あや)
食文化研究家。上智大学文学部史学科在学中より各地へ赴き、郷土食を調査研究している。京都光華女子大学真宗文化研究所学外研究員、一般社団法人和食文化国民会議調査研究部会幹事。