土地の産物や文化を背景に生まれてきた郷土料理。冠婚葬祭や四季の行事・仏事の寄合などで共に食され、地域に根づいてきました。その中からユニークなものをご紹介します。
氷をかき混ぜるガラガラという音からその名がついたという、静岡県御前崎市の「がわ」。かつお漁が盛んな土地ならではの漁師料理です。細かく叩いたかつおを、玉ねぎやきゅうりなどの野菜とともに、氷をはった味噌汁にドサッと入れます。漁師の肉体労働を支えるだけあって、栄養バランス満点。いまでは家庭料理となり、かつおの他にいさき、あじ、金目鯛など、旬の魚が使われることもあります。地元の主婦にとっては手軽に作れる料理のひとつで、大葉や梅干などの薬味を加えてそうめんに合わせるのもいいし、そのままご飯にかけても美味しくいただけます。味わいは各家庭により異なりますが、氷で薄まるため味噌は多めに溶き、魚は鮮度の良いものを選びます。漁師が船の上で作る本来の「がわ」は、じつは私も食べたことがありません。かつおの血や目玉まで入れるので、どろりとした口当たりでとても塩辛いそう。海の男の豪快なスタミナ料理、ぜひ食べてみたいと思っています。
能登半島の輪島市に伝わる「すいぜん」は、夏限定ではありませんが、涼感のある美しい逸品です。天草ともち米を使い、ところ天のように煮溶かして作ります。法事の際に出される精進料理であり、刺身の代用として黒く甘辛いごまだれをかけて食したり、和菓子として締めのデザートにすることもあります。家庭で作ることはあまりなく、店で買ってきたものを冷やしておき、家紋や花の形などに整えて、器に美しく盛付けます。もち米の白さが輪島塗の漆器に映え、華やかな文化のあるこの地方らしい料理といえます。輪島ではよく知られる「すいぜん」ですが、法事料理のせいかあまり観光客には知られていないよう。この上品な味わいをもっと広く伝えていきたいですね。
清 絢(きよし あや)
食文化研究家。上智大学文学部史学科在学中より各地へ赴き、郷土食を調査研究している。京都光華女子大学真宗文化研究所学外研究員、一般社団法人和食文化国民会議調査研究部会幹事。