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【匠の皿 vol.28】「卵と雑穀のジェノヴァ風サラダ」villa della pace オーナーシェフ 平田 明珠 氏

 
能登は、豊かな自然に抱かれた米の産地であり、昔から漁業も盛ん。この特徴を活かし、魚介入りの卵かけごはんを作ってみたいと思ったのが、メニュー開発のきっかけです。今回は、卵かけごはんをジェノヴァの魚介をたっぷり使ったサラダ「カッポン・マーグロ」風にアレンジしてみました。
 

 
主役の1つである卵は、卵黄を醤油漬けにしてから乾燥させて使います。まずは卵黄が浸かるくらいまで「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」を注ぎ、味をしみ込ませるためにキッチンペーパーで覆ってから容器の蓋をして、3日程度寝かせます。漬け込む時間は卵の大きさに合わせて調整してください。「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」は、クセや雑味がなく、それでいてコクもしっかりあるので料理の美味しさを底上げしてくれます。食材の味を邪魔しませんし、色も美しく仕上がるのがいいですね。イタリア料理にもフランス料理にも使える、汎用性の高い醤油だと思います。漬け込みが済んだ卵黄は、火が通らないように43℃に設定した食品乾燥機で、水分が飛ぶまで乾燥させます。乾燥させることで、卵や醤油のコクが濃縮され、熟成感も出るんです。
 

 
次に「雑穀のカッポン・マーグロ」を作ります。能登は米どころではありますが二毛作で麦を作る農家も多いことから、今回は雑穀を使うことにしました。それぞれがちょうどよい柔らかさになるように、もち麦、黒米、蕎麦の実は個別に茹でます。下茹でしたじゃがいもといんげん豆を1㎝角にカットし、雑穀、きゅうりのピクルスと混ぜ合わせます。味付けに使うのは、ジェノヴェーゼ・ソースと能登の伝統的な魚醤「いしり」です。地元のイカと塩を原材料としてじっくりと熟成・発酵させて作られる「いしり」は、味がしっかりと決まることに魅力を感じ愛用しています。また、ジェノヴェーゼ・ソースは一般的にはオリーブオイルを用いますが、今回は食材を主役にしたいと考え、クセの少ない太白ゴマ油を選びました。
 

 
使う魚介類はその日に地元で水揚げされたものを。カットして塩とオリーブオイルで軽くマリネします。今回は、アジ、トビウオ、アカイカ、アカニシガイ、イシサキエビを使いました。朝どれのものは鮮度がよく食感もいいのですが、旨味が浅く感じられることがあるので、雑穀の味付けに使った「いしり」の奥行きのあるコクや風味が生きてきます。
 

 
雑穀と野菜を混ぜたものをお皿に盛り付け、その上に魚介類のマリネをのせて、爽やかなアクセントとなるせりの花を添えます。最後に乾燥させた卵黄の醤油漬けを削りかけて完成です。これは、北欧にある塩漬け卵を削りかける料理から着想を得ました。卵をこのように使うと、乳製品が苦手な人にもチーズの代わりに楽しんでいただけるのではないでしょうか。
 

 
能登というと美味しい魚介類のイメージがありますし、実際に多くのお客様がそれを求めていらっしゃいます。でも、気候の影響からか漁獲量もとれる魚の種類もだんだん変わってきているのが実情です。私の店で使う魚介類は地元の漁師の方などから仕入れていますが、知名度のある高級な魚種にこだわるのが、果たして私の目指す料理なのか。考え抜いてたどり着いたのが、この土地で育つ野菜を主役にしながら、地元の人が日々の暮らしの中で食べている魚介類を使うことでした。「卵と雑穀のジェノヴァ風サラダ」も、そんな私の想いから生まれた一品なのです。
 

 
「卵と雑穀のジェノヴァ風サラダ」のレシピはこちら