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【匠の皿 vol.25】「真鯛の茶葉香る味噌焼き」 銀座 うち山 料理長 内山 英仁 氏

 
「銀座 うち山」では「鯛茶漬け」をご提供しています。お茶漬けには、お茶を使うものと出汁を使うものがありますが、私のお店は煎茶です。その理由は、朝締めの鮮度のいい鯛と、しっかりとした味付けの特製ゴマダレを使っているため、そこに出汁をかけしまうと、それぞれの味の主張が重なって複雑になり過ぎるから。煎茶は、鯛やゴマダレの味を立てて、上手にバランスをとってくれるんです。主役が何かをきちんと理解している名脇役のような食材といえるでしょう。「真鯛の茶葉香る味噌焼き」では、煎茶の茶殻を「茶葉みそ」に仕立てていますが、この料理でも、煎茶は名脇役になってくれました。
 

 
まずは鍋に、煎茶の茶殻とお酒を入れて火にかけます。水分とアルコール分をある程度とばしたら、「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」を入れて煎り、煎りゴマも加えて「炊き茶葉」をつくります。茶葉そのままでは食べにくさもあるため、お茶を抽出して適度に苦味を抜いた後、少し時間をおいて渋味を落ち着かせた茶殻を使いました。味付けに「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」を選んだのは、まろやかで美味しいというのが一番の理由ですが、さらに、茶殻にはこのような旨味の強い醤油が合うと思ったからです。
 

 
お茶には、香りや苦味、渋味といった特徴がありますが、食材としてのお茶の最大の魅力は旨味だと私は考えます。メカニズムは解明されていませんが、人間の味覚は、単純な味よりも複雑な味に美味しさを感じるようにできています。中でも苦味は味わいに奥行きをもたせ、旨味の素になります。「炊き茶葉」にもこの旨味をしっかりと活かしたい、そのために「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」を合わせて、旨味と旨味の相乗効果を狙ったのです。
 

 
「炊き茶葉」が出来たら、みそを混ぜて「茶葉みそ」をつくります。「炊き茶葉」に醤油を使っているため、通常のみそでは塩分が強くなり過ぎてしまいます。塩分濃度が低く、旨味を引き立てる白みそを使いました。
 

 
淡泊ながらも旨味のある真鯛の切り身は、うっすらと塩を振って余分な水分を出しておき、「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」と酒でつくった「一杯醤油」を塗って焼きます。この「一杯醤油」を塗るひと手間で、香ばしさや焼き色が格段にアップします。焼き上げた鯛に茶葉みそを塗り、バーナーで炙って完成です。炙ることで、醤油、みそ、お茶、それぞれの香ばしさが調和しながら匂い立ち、食欲をそそります。付け合わせに、グリルした季節の野菜などを彩りよく添えるとよいでしょう。
 

 
今回のメニュー開発は、お茶の可能性を深く考えるよいきっかけとなりました。玉露の茶殻は醤油をかけただけでも美味しくいただけることを知っていましたし、茶殻を醤油で煮詰めた辛煮や当座煮と呼ばれるものを、焼き物のあしらいやお酒のつまみにすることもありました。では、その他の料理にするならどうだろう。そう考えてみたら、主役は難しいけれど脇役として、思いのほか多彩な使い方が発見できたんです。「炊き茶葉」は、煎り酒と合わせて刺身や揚げ物に添えると、素材の味をうまく引き出せることがわかりました。「茶葉みそ」も、イチジクの風呂吹きや揚げ出し豆腐、ナスの田楽に乗せたり、白和えや胡麻和えに加えたりすると面白いでしょう。
 

 
お茶を飲む習慣は世界各地にありますが、日本の緑茶文化は独特のもの。お茶農家などではさらにいろいろな料理で食されていると思います。世界遺産にもなった和食の一翼として、お茶をベースとした食文化も広く世界に伝わっていくといいなと思います。
 
「真鯛の茶葉香る味噌焼き」のレシピはこちら