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【匠の皿 vol.17】「ひかわ風 金目鯛の煮付け」赤坂 ひかわ 料理長 田中 勝 氏

「金目鯛の煮付け」は家庭料理としてもおなじみの“日本の味”です。調理方法が確立された料理ではありますが、今回は保存容器を用いて「煮る」工程と「仕上げ」工程を分ける新たなレシピを考案しました。これにより、本来は長い時間を要する煮付けを、効率的なオペレーションで提供することができます。飲食店を取り巻く環境ががらりと変わったいまだからこそ、時間の活用方法にお悩みの皆さんにお試しいただきたい一皿です。
 

 
まずは、下ごしらえのポイントを説明いたします。金目鯛はできるだけお腹に張りのある脂がのったものを使ってください。金目鯛は身の舌ざわりも魅力ですので、霜降りの工程は入念に行い、うろこが一枚も残らないようにしましょう。
煮付けの味を決めるのは、やはり醤油。脂がのった金目鯛の旨味を引き立てるのが「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」です。当店の煮付けにも愛用しており、濃厚な味わいとふくよかな香りはほかの醤油とは一線を画していますね。
 

 
煮付けにおける醤油の役割は味付けだけではありません。私は「煮る」工程で醤油を3回に分けて加えます。手始めに、金目鯛を煮始める際にほんの数滴。おまじない程度ですが、金目鯛の煮汁の吸い込みが良くなります。次は、煮汁が煮詰まってきたタイミングに加えると、煮付けの代名詞とも言える“照り”が出ます。そして、火を落とす直前にひとまわし。「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」のふくよかな香りを全体に行きわたらせます。従来の煮付けであれば、以上で完成です。
 

 
新しい調理工程は、まず粗熱をとった金目鯛、野菜をそれぞれ煮汁から取り出します。当店では、翌日のランチで提供する分はふた付きの密封容器に入れ、テイクアウト用は真空パックします。煮汁に漬けたままだと、素材の色味が損なわれ、味が入り過ぎてしまうので、手早く取り分けるのがポイントです。お召し上がりになる際には、鍋に移して温める、もしくは耐熱容器に移して電子レンジで加熱してください。この「温めなおす」という仕上げ工程ひとつで、丹念に煮上げられた「金目鯛の煮付け」を高い回転率が求められるランチメニューとしても提供できるため、ピークタイム対応に奮闘する飲食店にとって心強い味方になるはずです。
 

 
コロナ禍により社会全体が変化し、「自宅で本格的なおいしさを味わいたい」というお客様のニーズが生まれ、また当店では感染対策として鍋物を料理人自ら取り分けてお出しするなど、料理提供の仕組みも変わりました。今回開発した「金目鯛の煮付け」は、そうしたさまざまな変化に対応した一皿と言えます。ランチの調理を無駄なく行えるようになったことで、私たちが自由に使える“ゴールデンタイム”が生まれました。その貴重な時間は、テイクアウト用の仕込みや若手スタッフへの伝統技術の手ほどきといった、当店の未来につながる取り組みに充てています。
 

 
既成概念にとらわれないレシピ開発は、私だけにできる特別なことではありません。積み重ねてきた調理技術を基礎として、その人らしい感性や経験を組み合わせることができれば、きっと新しいアイデアと巡り合えます。料理人の皆さんには、ぜひ“遊び心”をもって料理と向き合い、お客様の心を惹きつける一皿をどんどん生み出していただきたいです。そして、お互いに刺激を与え合いながら、これからの料理界を一緒に盛り上げていきましょう。
 
「ひかわ風 金目鯛の煮付け」のレシピはこちら