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【匠の皿 vol.22】「茄子そうめん」 砂山 利治 氏

 
「茄子そうめん」とは、かつてそうめんの一大産地であった石川県で受け継がれている、茄子とそうめんを煮込んだ郷土料理です。僕もよく食べていたのですが、茄子とそうめんにもっと一体感を出せばさらにおいしい料理にできると考え、ラビオリから発想を得て、そうめんの生地で茄子を包むことにしました。
 

 
まずは生地づくり。よく混ぜた材料を足で踏んで練ります。グルテンが強く出るので、1時間ほど休ませるといいでしょう。できあがった生地は、茹でれば通常のラビオリより食感がトゥルンと滑らかになり、そうめんののど越しのよさを思い起こさせるものになります。
 
次に茄子の準備です。通常の茄子そうめんでは茄子をだし汁で煮ますが、そうめん生地との相性を考え、ピューレ状にしたファルスに仕立てます。茄子は半分に切り、切り口に格子状の切れ込みを入れ、オリーブオイルを塗ってオーブンで焼きます。しっかりと焼き色がつき、包丁が引っかからずにスッと入るようになったら、スプーンで中身をくり抜いて包丁でたたいてください。石川県では加賀野菜の「ヘタ紫なす」を使うこともありますが、手に入りやすい長茄子や中長茄子で十分おいしくつくれます。
 

 
そうめん汁はジュレにします。昆布とかつおのだし汁に、「ヤマサうすくちしょうゆ」、みりんを加えて温め、ふやかしたゼラチンを入れて溶かしたら、冷やし固めます。一般的に薄口醤油は塩分が高めですが、「ヤマサうすくちしょうゆ」はこのように冷やして使うと塩味が穏やかになり、味が優しくまとまりますね。色も美しく仕上がるのでとても気に入っています。
 

 
生地をできるだけ薄く伸ばし、円形に型抜きしたら、2枚を使って茄子のファルスを包み、茹でます。茹で上がったら冷やしますが、生地に塩を使っているため、氷水で冷やすと余分な塩分が出てしまいます。必ず流水で冷やすようにしましょう。
 

 
みじん切りにしたみょうがを皿に敷き、ストラッチャテッラチーズをのせ、砕いた「そうめん汁ジュレ」をかけて、チーズの上にラビオリを置きます。その上に菊の花を散らして完成です。
 

 
醤油はどんな発酵食品とも相性が抜群。そのため、茄子そうめんとは無縁のチーズを合わせてみようと考えました。茄子やそうめんのさっぱりとした味わいとのバランスを考え、フレッシュ感のあるストラッチャテッラチーズを選んでいます。また、そうめん汁は醤油、みりん、だし汁と基本を踏襲しながらも、ジュレにすることで、茄子の旨味や生地の喉ごしを際立たせつつ味をまとわせることができました。
 

 
郷土料理は、その地域の暮らしや文化を包括しながら長い年月をかけてたくさんの人に親しまれてきたもの。醤油も同様ですが、生き残ってきたのにはそれなりの理由があります。例えば僕が新たな郷土料理をつくろうとしても、簡単にできるものではありませんし、単純にフランス料理風にアレンジして、いいものが仕上がるとも思えません。今回は、「もっと食べやすくできないか」「自分のアイデアで最高においしい形で提供できるようにならないか」という思いから開発はスタートしました。「どうしてこうなっているのだろう」「これでいいのかな」と考えることに、郷土料理を未来へと継承しながらも発展させていくヒントがあるのではないでしょうか。
 
「茄子そうめん」のレシピはこちら