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【匠の皿 vol.11】「牛ロース煮とかぶらの炊き合わせ」 赤坂 おぎ乃 主人 荻野 聡士 氏

 
「牛ロース煮とかぶらの炊き合わせ」は、醤油とだしという日本料理の根幹をしみじみと味わえる「炊き合わせ」をベースに開発しました。私らしさとして、しっかりとした食べ応えのある一品に仕上げたいと思い、メイン食材には牛ロースをセレクト。かぶらは冬に旬を迎えますが、走りものならではの青々しさがアクセントとして面白いと感じ、今回組み合わせてみました。
 

 
かつおと昆布の滋味をじっくりと抽出した二番だしは、旨味・香りともに重厚。そのため、わずかな塩で味の輪郭が決まります。この“いい塩梅”を崩すことなく、炊き合わせらしい醤油香をまとわせたい時に、やさしい塩味の「ヤマサうすくちしょうゆ」が活躍します。ひとさじ垂らすだけで弾けるように立つ王道の香りは、数ある醤油のなかでも特筆ものだと思います。
 

 
醤油が優しく香る奥ゆかしいだしだからこそ、具材の調理にも丁寧さは欠かせません。丹念に焼き目をつけることで旨味を閉じ込め香ばしさをまとわせた牛ロースは、「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」の気骨さ漂う割下にくぐらせることで旨味が増幅。芯の太い味わいでありながら赤色が映える“美しい醤油”は、味・見た目のいずれをとっても澄んだだしとの相性が抜群です。一連の工程は決して難しいものではありません。だからこそ、ひとつひとつの作業をおいしく仕上がるための“紐解き”として、丁寧に行う心がけが重要だと考えています。
 

 
器は、かねてから親交がある陶芸家・山口真人さんの織部焼を使わせていただきました。今回のために作陶いただいた逸品は、“動”を感じさせる勢いが素晴らしく、それに負けないよう盛り付けは木の芽や白葱で伸びやかに。また、器の青緑色を際立たせるため、味のアクセントにもなる辛子を添えました。「料理」とは料理人と陶芸家による共作でもありますので、器の個性に応じたメニュー開発や盛り付けを、私の腕の見せ所として存分に楽しませていただきました。
 

 
日本は今、先行きが見えない状況が続いています。私としては、伝統を受け継ぐ日本料理と向き合う日々に変わりはありません。手がける料理の根底にあるのは、日本の素晴らしい文化と四季の表現。こと大都会・東京においては、日常のなかで四季を感じにくいものです。だからこそお客様には、お店でのひとときばかりは都会の喧騒、そして世相への不安を忘れ、旬の味覚と季節の移ろいを堪能していただきたい。調理技術と知識、ホスピタリティを結集した“外食ならでは食体験”は、心に幸せの灯りをともす存在として、今の時代にこそ求められているのではないでしょうか。これからも私を育ててくれた料理界への恩返しの意を込めて、活気ある外食業界の明るい未来を切り拓いていければと思います。
 
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