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【匠の皿 vol.3】「炭火 黒毛和牛 出汁〆」 粲(sun) 盛山 貴行総料理長

 
正直なところ、長きにわたり日本料理の世界に身を置く中で、減塩醤油を使ったことはありませんでした。いわば“塩分控えめの醤油”という単純なイメージを抱いていましたが、味見をしてみると一言では語れない奥深い風味に驚きました。そんな未知の味わいからインスピレーションを得て開発したメニューが「炭火 黒毛和牛 出汁〆」です。
 


 
着目したのは、減塩醤油特有の「酸味」。塩分濃度が低い分、醤油が持つ繊細な酸味が際立っています。この酸味が出汁の香りを引き立たせるため、食材に昆布の香りとうま味を移す伝統技法「昆布締め」と組み合わせることで、ひと味違う日本料理の味わいを目指しました。酸味は料理の香りや味わいを引き締めてキレを良くする、日本料理に不可欠な要素。普段は酢やカボス、スダチといった柑橘類を使いますが、減塩醤油も味を締める調味料として十分活用できると感じました。
 

 

 
おいしく調理するためのポイントは、黒毛和牛・出汁・減塩醤油が三位一体となる「下味の付け方」です。昆布には減塩醤油を刷毛で丹念に塗りましょう。そうすることで牛肉を包んだ際に、昆布と減塩醤油の風味がしっかりと行きわたります。また、昆布にまぶす鰹節は丁寧に煎ることで香りとうま味に丸みが出ます。主役の牛肉は、出汁の繊細な風味と合わせることを考慮し、脂身が少ない赤身の部分を使うことをおすすめします。実際の調理では炭火で焼き上げましたが、ご家庭ではオーブンレンジで代用できます。「180℃で5分加熱→5分休ませる」という工程を2回繰り返してください。
 

 
また、ソースにも減塩醤油を使用しています。醤油本来の香りとほど良い酸味が効いた“ドレッシングとあんのハイブリッド”という表現が当てはまる、面白い味わいに仕上げました。肉はもちろん野菜との相性も良く、ソースとしての高い汎用性があります。付け合わせはお好みで水菜やカイワレ、シソなど色々な野菜で楽しんでみてください。
 

 
ヤマサ醤油といえば、濃口醤油に代表される「安定したおいしさ・使いやすい」というイメージ。それだけに、同じ醤油でありながら味わいに振り幅のある減塩醤油を手がけていることは大きな発見であり、醤油の世界を追求する企業姿勢を感じました。そんな歴史ある醤油メーカーの意欲作を使い、黒豆煮や卵黄の醤油漬けなどを作るとどのような味わいになるのか。簡単には想像できない分、料理人としての好奇心をくすぐられます。「料理のさしすせそ」が表すように、日本料理は扱う調味料が限られているため、各調味料内のバリエーションで料理の個性を生み出します。今回のメニュー開発は、減塩醤油が個性のある貴重な存在だと実感できる、非常に有意義な試みになりました。今後は醤油という枠に収まらない「新しい調味料」である減塩醤油を、さまざまな料理の引き立て役として試していきたいです。
 
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