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【匠の皿 vol.27】「鴨治部」金城樓 代表取締役社長 土屋 兵衛 氏

 
この料理は、加賀藩主である前田のお殿様も召し上がった歴史ある加賀料理です。名前は「じぶじぶ(ふつふつ)」と炊くことに由来するといわれ、「治部」といいますが、今回は鴨を使うので「鴨治部」とします。もともとは鶴や雉(キジ)などで作られた料理ですが、現代では手に入りにくいので、「金城樓」では合鴨、冬は野鴨を使っています。今回の「鴨治部」では、鴨の他、すだれ麩、つるまめ、舞茸、ずいきの湯葉巻きを具材とします。
 

 
すだれ麩は、「治部」には欠かせない食材です。すだれで成形するため表面に波打ったような筋があり、表面積が広く味が染みやすいのが特徴です。金沢は昔から京都と並ぶ麩の産地であり、すだれ麩も「加賀麩」と呼ばれる金沢で親しまれてきた麩のひとつ。麩だけでも驚くほどバリエーションが豊富なのは、豊かな食文化、茶の湯文化を育んできたこの街ならではでしょう。また、麩と同様に古くから金沢で生産されてきた野菜は、近年「加賀野菜」として守り受け継がれています。今回使用したつるまめもずいきも、その「加賀野菜」に認定されているものです。
 

 
まず、鴨の肉は脂に隠し包丁を入れてから薄くへぎ切りにし、コーティングととろみ付けのために小麦粉をまぶします。すだれ麩は湯通しし、舞茸は小分けに。ずいきは下処理をして生湯葉で巻いておきます。
 

 
鍋に入れた「治部出汁」と呼ぶ合わせ出汁に、具材を入れて炊き上げます。合わせ出汁は鴨の出汁に、「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」と「ヤマサうすくちしょうゆ」、酒、みりん、砂糖を合わせたものです。2種類の醤油を必ず使うのは、濃口醤油だけだと色が黒くなり過ぎ、薄口醤油だけだと塩気が強く出てしまうから。「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」はまろやかな口当たりと落ち着いた色味が魅力ですね。「ヤマサうすくちしょうゆ」は食材の色を引き立ててくれるので気に入っています。この2種類の醤油は鴨の出汁とも相性がよく、合わせることで美味しさがアップします。
 

 
炊き上がったところで、出汁に水で溶いた小麦粉を加えてとろみを付けます。水と小麦の量は1:1で、一晩寝かせてから使うと落ち着いたとろみになります。とろみというと片栗粉を使う場合も多いのですが、「治部」は小麦粉を使うことで、出汁もスルッと滑らかに飲んでいただけるものに仕上がるんです。鴨にも小麦粉をまぶしましたが、このように小麦粉を使うのは和食では珍しいこと。天ぷらやカステラのような南蛮渡来の食文化の影響を受けているのではないかと思います。
 

 
とろみが付いたら、お椀に盛り、細かくすって香りを立たせた山葵を添えます。使うお椀は「治部椀」という専用の物。輪島塗の蒔絵を施した浅めのお椀で、見た目の麗しさにもこだわった加賀料理の粋を、食する方に感じていただけるでしょう。
 

 
「治部」は江戸時代にお殿様が召し上がった料理が元になっていますが、家庭でも食されてきた料理です。私も子どもの頃に、鴨の代わりにサワラやタラを使った「治部」を家で食べていました。鶏のもも肉や牛肉で作ってもよいですし、大根やなす、ねぎなどの身近な野菜でも美味しく出来上がります。金沢の食文化を未来へと受け継いでいくためにも、ご家庭で気軽に作り続けていってもらいたいです。
 

 
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