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【匠の皿 vol.24】「百日舞茸の炭火焼」 天武 料理長 天田 竜聖 氏

 
「百日舞茸の炭火焼」は、きのこのバター醤油焼きからインスピレーションを得たメニューです。炭火で肉や野菜を焼くバーベキューをヒントに、複雑な旨味と香ばしさを加え、日本料理で親しんでいる甘辛い味つけの奥に、新しい美味しさが感じられる料理を目指しました。
 

 
まず、舞茸を焼く時に塗るソースをつくります。くず肉と香味野菜でとったビーフストックに、「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」、溶かしバターを合わせ、自家製黒ニンニクのペーストで熟成した甘味を加えます。
 

 
舞茸に刷毛でソースを塗りながら炭火で焼きますが、したたり落ちるソースが炭に触れると、食欲を刺激する香ばしい匂いが立ちあがります。ソースに「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」を使うのは、この香り立ちのよさがあるからです。網が火に接していると舞茸に火が通らないうちに焦げてしまうので注意してください。また、複雑な形をしている舞茸にソースを均一に塗ろうとすると、どうしても塗り過ぎて味が濃くなってしまいます。香り高くふくよかな味のソースなので、多少の塗りムラがあってもその味わいは十分に楽しめます。
 

 
今回メインの食材に選んだ群馬でつくられている百日舞茸は、通常の2倍の日数をかけて育てられるため、香りや歯ごたえが強く、栄養も豊富。地元の幸を大切にしたいという想いもありますが、何より美味しいので普段からよく使っています。大きな塊のまま焼くと、水分が閉じ込められてみずみずしさが保てるので、焼いた後に縦に割くようにカットしてください。
 

 
スープは、ビーフストックにしいたけを漬けて一晩寝かせたものに、醤油やみりんなどを加えて味を調えます。具材と味を馴染ませるため、舞茸に塗ったソースと同じ「ヤマサ重ね仕込みしょうゆ 本懐石」を使いました。最後に火を止めて、肉料理の臭み消しやジンの香り付けに用いられる「ジュニパーベリー」を入れ、1分ほど待ってほんのりとした香りを移したら取り出します。
 

 
舞茸にスープをかけ、大葉オイルを垂らした上から穂紫蘇を散らして完成です。大葉オイルは、サラダ油などの香りのない油と大葉を合わせて真空にかけ、65℃で1時間加熱してつくったフレーバーオイル。舞茸や醤油、バターのどっしりとした味わいに穂紫蘇のフレッシュな香味を効かせ、さらに、舌に残る大葉オイルで爽やかな余韻を演出しました。
 

 
牛肉ときのこの旨味成分は相性がよいためビーフストックを使用しましたが、今回は舞茸や醤油の香りと味を前面に打ち出し、牛肉は旨味だけを活かしたいと考えました。そこで取り入れたのが、フランス料理の「アンフュゼ」という技法でジュニパーベリーの香りを移すことです。ジュニパーベリーは、クセのあるジビエにも使われるほど肉料理の臭み消しに役立つ一方で、肉の旨味を引き出す力もあるスパイス。ジュニパーベリーそのものの香りは決して強くないため、舞茸の風味は損ねません。バター醤油炒めのような馴染みのある味わいは残しつつも、さらにその奥に牛肉の存在をしっかりと感じさせられたのは、ジュニパーベリーのおかげです。私は、この料理のように国やジャンルにとらわれず自由な発想で食材や調理技法を組み合わせることが、美味しさの可能性を広げていくと確信しています。
 

 
「百日舞茸の炭火焼」のレシピはこちら