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注目店のキラーメニュー KOMB

 
飯田橋駅から歩くこと数分、控え目な文字で「こんぶ」とだけ書かれた白い暖簾がお店の目印です。路地に面した木を活かしたファサードはカフェのようにも見え、「なんのお店ですか?」とドアを開く方も多いといいます。「パスタを出しても違和感がないように」とオーダーしたというシンプルな内装に、席はカウンターのみ。目の前に立ち上る湯気の温もりや炭火の香りに昔の記憶がよみがえったり、ふとした瞬間に味を思い出したりする、そんな心にしみる料理を作っていきたいと原田さんは言います。
 

 
大鍋から取り分ける鍋が評判を呼ぶ
月替わりのコースメニュー

 
このお店は、月替わりで季節のコースをご用意しています。その中で、鍋料理を通年お出ししており、季節の食材とその美味しい出汁を皆様に楽しんでいただいています。卓上で炭火が使える水コンロを置き、お客様の目の前で鍋を仕上げて取り分ける、そのライブ感と大きな土鍋で作ることによる味わい深さ、1つの鍋を分け合うことで生まれるお客様同士の一体感などが好評の理由と原田さんは考えています。春は地上に顔を出す前に掘り出した白子筍と花山椒、冬は猪といったように月ごとに変わる鍋を楽しみに、多くの常連客が毎月訪れます。
 

 
キラーメニューとしてご紹介いただいたのは、そんな鍋の1つ。鴨の団子に、金時にんじんと九条ねぎが鮮やかな彩りを添える「鴨団子の酒粕鍋」です。主役を務める茨城県産「かすみ鴨」は臭みがなく脂もきれいなところが気に入り、スープに使う酒粕は原田さんが好きな日本酒を醸造している石川県の酒蔵から、白味噌は酒粕との相性がよい香りの強いものを京都府の味噌蔵から取り寄せています。
 

 
鍋と同じく季節によって食材を変えているのが、アラカルトメニューの「季節の焼売」です。今回作っていただいたのは、ジューシーな豚肉にくわいのシャキシャキ感と春菊の香りをアクセントにしたもので、食べる時に調味料をつける必要がないように、「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」のような濃口の醤油を使って味つけしています。「KOMB」の定番「季節の焼売」は、原田さんが研修でお世話になった中国料理の名店直伝の品。コースに追加注文したり、お持ち帰りしたりするなど、たくさんのお客様に愛されています。
 

 
全国各地から取り寄せている食材や調味料へのこだわりも、このお店の特徴でしょう。情報収集には、インターネットに加え知人やお客様の人的ネットワークも活用。気になるものがあればまず取り寄せ、味を確認した上で料理に採用しています。どんな場所でどのように作られているかを知るために生産者のもとに出向き、時には収穫などを手伝うことも。その行き先は全国に及びますが、様々な生産者との出会いが料理の幅を広げるのと同時に、信頼関係を構築できるというメリットもあります。
 
店として目指したのは
昆布出汁のような存在

 

 
お椀など出汁の風味が大切な料理には、開店直前にとった一番出汁を使います。「KOMB」で年間を通して使用しているのは、甘味とコクが特徴の真昆布をベースに、本枯れ節の香りをのせた合わせ出汁。この合わせ出汁が、原田さんが作り続けたいと考える、心にしみる料理を支えます。 「昆布は菜食の方でも召し上がれる食材で、海外でも今注目されているものです。和食では、基礎となる出汁が旬の食材を引き立て、味わいを豊かにします。「KOMB」は、昆布の出汁のように料理の基礎となり、旬の恵みや季節を楽しめる場を目指しています。「KOMB(こんぶ)」の音の響きもいいので店名にしました」。
 
コロナ禍を経て時代にフィットした
「KOMB」の営業スタイル

 

 
大学ではITを専攻し、卒業後、神楽坂の懐石料理店で日本料理を学んだ後に独立。ケータリングや料理教室をスタートした後、「虎屋菓寮」の料理の監修をするなど異色の経歴をもちます。
いろいろなことに興味があることから、当初は店舗を構えずにケータリングや料理教室、飲食コンサルティングの仕事を続けました。しかし、仕事の幅を広げるためには店舗のような「場」が欠かせないと思い至ります。どうしようかと悩んでいた時に迎えたコロナ禍。飲食業界が苦境に立たされる中、自らが望む多面的な営業スタイルが今こそ受け入れられるのではないかと思い、「KOMB」の開業に踏み出しました。さらに、ITの知識を活かしてオンラインショップも運営。現在は、レストランは基本的に木・金・土だけの営業とし、その他の曜日は店舗でケータリングのお弁当や通販商品を作ったり、料理教室を開いたりしています。
 

 
多面的な活動に忙しさを感じている原田さんですが、「飽きっぽい性格なので、むしろ楽しめています」と笑顔を見せます。また、レストランは原田さん抜きには成り立ちませんが、レシピが完成しているケータリングやオンラインショップなら、スタッフだけでも対応が可能。自分が不在にしても「KOMB」が成り立つような仕組み作りには、場所に縛られず自由に生きたいという個人としての想いと、お店を成り立たせなければというオーナーシェフとしての気概が表れています。
 
【店舗紹介】
KOMB

 

 
〒162-0827
東京都新宿区若宮町5番地
平日 19:00~
土 12:00~/18:00~
※不定期休み
※営業時間は、取材時点の情報になります。
※貸し切りの場合、上記以外の曜日も予約可能。ケータリング、料理教室については要問い合わせ。
http://komb.jp