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【ひしほがたり】第十六話:日本の出汁×西洋料理のアプローチ

 
―日本料理の出汁と西洋料理の出汁には、どのような違いや魅力がありますか?
 
佐藤様:私は料理の基礎として和食を学びましたので、出汁とはやはり料理のベースだと考えています。使わない料理は無いくらいでしょう。日本料理の出汁では昆布や鰹節などを使いますが、それに加えて鶏や牛の西洋料理の出汁、最近は野菜からも出汁をとって使っています。さらに、食材から出る旨味も活かします。
 
玉水様:私も佐藤さんと同じ考えで、出汁は料理の土台。どういった料理を作るかで、どういった出汁を使うかも変わってきます。今は出汁のとり方もいろいろなことが解明され、新たなものも開発されているので、出汁をとる時から料理人としてのオリジナリティが発揮できるようになっているなと思います。
 

 
佐藤様:日本料理の出汁は西洋料理の出汁に比べて短時間でとることができ、しかもすごく美味しいですよね。昆布も鰹も生産者の皆さんが時間をかけて作り上げ、そこから料理人が短時間で出汁をとる。それが日本料理の出汁の特徴かもしれません。それに対して西洋料理の出汁は、例えば、鶏の出汁にたくさんの野菜を加えたり仔牛を加えたり、つまり料理人が時間をかけて足していくことで複雑さと旨味を出す。どちらも使いますが、それぞれに良さがあります。私は昆布出汁が好きなのですが、西洋料理の鶏の出汁と合わせると、旨味を乗せるという作業がしやすいんです。西洋料理の出汁同士をプラスすると、旨味はもちろん乗るのですが濃くなり過ぎて使いにくいことがあります。
 
玉水様:おっしゃる通りで、西洋料理の出汁は食材をいかに煮詰めて作っていくか、本当にプラスしていく出汁の考え方です。そこが一番の違いでしょうね。
今の時代、フランス料理でも伝統的なものよりも軽めの料理が求められています。煮詰めて作る出汁だと、やっぱり少し強い印象になってしまう。日本料理と西洋料理の出汁を組み合わせてちょうどよい軽さを出すのは、今の時代にフィットしているでしょう。ただし、昆布出汁と鰹出汁を合わせてしまうと、完全に日本料理になってしまう。だから私が今回開発したメニューでは、グルタミン酸を含む昆布の出汁とイノシン酸を含む鶏の出汁を合わせて使いました。日本人が日本人のために作るフレンチですから、日本料理の出汁を加えることによって食べる人に安らぎを感じていただけるのではないかと思っています。
 

 
佐藤様:出汁は地域によって使い方も変わってくるので、その土地を感じるもの。もっと言ってしまえば、人それぞれのベースでもあるのではないでしょうか。玉水さんのお話で思い出しましたが、先日、大阪に行った時にうどんを食べてとても美味しく感じたんです。出汁に使われていた干ししいたけの旨味に子どもの頃から煮物などで慣れ親しんだ味を思い出し、懐かしさが込み上げてきました。
 
玉水様:確かに出汁は、日本人にとって精神的にも切っても切り離せないもの、落ち着く味だと思うんです。例えば二日酔いのつらい時でもお茶漬けの美味しさに癒されるように、出汁が入っていることで何も考えなくても自然と心と体が和む、そんな存在ですね。
 
佐藤様:旨味自体は何にでもあるのですが、若い人は出汁そのものを味わう機会が減っていますよね。味噌汁だってあまり飲んでいないでしょう。だからといって出汁や旨味を感じない、嫌いだというわけではないと思うのですが、より味の濃い、分かりやすい旨味が求められているように感じています。
 

 
玉水様:日本は世界中の料理が味わえるのに加えて、食品を取り巻く産業のレベルがとても高いですよね。低コストでストレートに美味しいと思わせる料理や食品がとても身近にある環境です。そういったものばかり食べていると、濃い味が当たり前になり、日本伝統の繊細な味に物足りなさを感じるようになってしまうのではないでしょうか。本来はそれぞれの食材がもつ香りや旨味成分によって味は成り立ちます。意識はしていなくても出汁や旨味を口にしているのに、そのよさが分からない、気づきにくい舌になっているのではないでしょうか。でもその一方で、海外からは日本料理の出汁や旨味に注目が集まっています。
 
佐藤様:世界的に健康志向が強まっていて、その点が海外での評価につながっていると考えています。また、昆布出汁はベジタリアンの方も食べられるなど、より多くの方に味わっていただけるものです。
玉水様:料理人として考えると、今まで西洋料理になかった香りであることに加え、抽出時間が短いのでコストや労働時間といった面でも魅力的でしょう。
 

 
―日本料理では出汁と一緒に使われることの多い醤油ですが、西洋料理との相性についてお二人はどのようにお考えですか?
 
佐藤様:今回開発したメニューのように、油と醤油を合わせると味が乗り、旨味を感じやすくなります。普段醤油を使うことはあまり多くなく、隠し味に加える程度ですが、醤油の香りを出したり、旨味が広がったりするように、油との相性や合わせ方を考えるようにしています。今回開発したメニューでは「生引たまり」を使いましたが、油にあわせて醤油の種類も変えています。
 

 
玉水様:フランス料理には、醤油のように時間をかけて熟成した旨味のある調味料はあまりありません。魚醤やアンチョビなどは、使い方は限られてしまいますし。味わいが完成している醤油は、フランス料理ではソースのようなもの。いろいろな料理にちょっと加えるだけで、出汁のような旨味を足すことができます。
 

 
―今後、どのようなことにチャレンジしていきたいですか?
 
佐藤様:鰹出汁は強いので西洋料理には使いにくいと感じていますが、鯖出汁や鰆出汁、最近見かける鶏節の出汁などにもチャレンジしてみたいです。自分で野菜を長時間低温で燻して野菜節を作ってみたいとも考えています。
 
玉水様:私は日本料理の出汁と西洋料理の出汁の間をつなぐようなものを作りたいと考えています。魚介を使ったヘルシーな日本の出汁の製法を活用して、肉の出汁がとれたら面白い。佐藤さんから鶏節の話が出ましたが、鴨節や鹿節のようなジビエを活用した節を目にすることはあっても料理に削りかけたりすることが多く、出汁を口にしたことはないんです。いい味が引き出せればジビエの消費にもつながります。
 
佐藤様:野菜節を使った料理とジビエ節を使った料理は全く違うものになるので、興味深いですね。
 
玉水様:いろんな考え方があって、野菜節は自分になかった発想です。発想の違いがあればあるほど出汁も料理も可能性がどんどん広がっていきます。
 

 
佐藤様:料理の可能性というと、コロナ禍を経て、お客様の料理に対する要求は、美味しいものを美味しく食べたい、お金を出しても美味しいものが食べたいという風に、よりシンプルになっていったように感じます。フランス料理やイタリア料理といった境界線も、どんどんなくなっていくでしょう。そんな要望に応えられるように、私も美味しさをシンプルに表現していきたいです。
 
玉水様:外食産業の全体像を見ていると、お客様の要求はより細分化していくようにも思えます。今までは「どこのレストランに行きたい」でしたが、これからは「どこの、誰の料理を、料理にまつわるストーリーを聞きながら食べたい」というような期待も高まっていくでしょう。こだわりやオリジナリティで差別化を図らないと選ばれなくなってしまうという危機感があります。私の強みは「香り」。五感を刺激して、お腹を満たすだけでなくアミューズメント感も楽しんでいただける料理を提供していきたいです。
 
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【佐藤 正光氏プロフィール】
ALMA
料理長
 

 
1988年生まれ、宮城県出身。
幼少期から海と魚介に囲まれ育ち、料理人を目指すように。仙台の調理師専門学校を卒業後、1年半ほど日本料理店で修業して和食の基礎を学ぶ。その後イタリア料理に魅せられ、仙台のイタリアンレストランで腕を磨いた後、2013年に東北イタリアン「ALMA」へ。現在は料理長を務める。
 
■ALMA
 

 
〒150-0011
東京都渋谷区東3-15-6 百百代ビル1F
11:30~15:00(L.O.14:00、ドリンクL.O.14:00)
17:30~22:00(L.O.21:00、ドリンクL.O.21:30)
※月・火曜日定休(祝日を除く)
https://www.classic-inc.jp/alma/index.html
 
【玉水 正人氏プロフィール】
Wine Restaurant Le Conte
エグゼクティブシェフ
 

 
1986年生まれ、三重県出身。
フランスの二ツ星「Restaurant Le Pré Xavier Beaudiment」で修業し、「香り」に重点を置いた料理構成とテロワールを生かした自然料理を学ぶ。帰国後は、名古屋「Le Ravissment」、代官山「レクテ」、虎ノ門ヒルズ「sanmi」などで経験を積み、現在は「Wine Restaurant Le Conte」のエグゼクティブシェフを務める。また、JSA認定ソムリエであり、料理に合わせたワインの選定で好評を得ている。
 
主な受賞歴
RED U-35 2021 ブロンズエッグ
 
■Wine Restaurant Le Conte
 

 
〒 183-0023
東京都府中市宮町1-50 くるる1F
17:30~22:00(Bar Time20:00~)
※月・第1・3・5日曜日定休
https://leconte.jp/