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【ひしほがたり】第十四話:料理としてのお茶に期待すること

 
―食材としてのお茶にはどのような魅力があると思いますか?
 
内山様:お茶の魅力には、まず旨味があります。旨味を活かし、お茶特有の香りを飛ばさず、苦味や渋味とのバランスをとれば、幅広い料理に使える食材です。苦味が主張し過ぎると他の素材の味が損なわれてしまいますが、旨味と上手にバランスをとるとコクとなって味に奥行きを生み出してくれます。
 
木本様:私も日本のお茶のチャームポイントは旨味だと思います。煎茶を使ったお茶漬けをいただいたりすると、ダイレクトに旨味が感じられて驚きます。日本のお茶を使った料理を開発するのは、抹茶を使ったデザートを除けば初めての経験でしたが、「お茶を料理に使う」ということを概念としてどうとらえればいいのかとても悩みました。私のルーツであり、料理留学もした韓国では、例えばゆず茶やなつめ茶、五味子茶など、煮出す物が茶葉でなくてもお茶になります。でも、煮出した物をそのまま料理に使うことはあまりありません。調味料やクリームを加えたり、肉や野菜と合わせたり。そうなってくるともう出汁なんですよね。日本で、見た目、香り、味からお茶を使った料理として認識してもらうためには、やはり日本の茶葉でないといけませんし。
 
内山様:茶葉自体を使おうと考えても、食べやすくするために一度お茶を入れて出し殻にしてから使うなど、食べやすくするためのひと手間が必要です。昔はもっとお茶を使った料理が食卓に並んでいたと思うのですが、今は手間をかけずとも美味しい物がたくさんあるから、無理して食べなくてもよくなりました。お茶を使った料理があまり一般的でないのには、そのような背景があると考えています。でも、玉露の出し殻などは醤油を垂らすだけでもとても美味しくいただけるんですよ。
 

 
―料理にお茶を使うことには、どのような価値や可能性がありますか?
 
内山様:私たちのようなプロの料理では、やはり味が非常に重要になります。先ほど苦味はコクになるとお話ししましたが、なぜか人間の舌は、純粋な味よりも少し異なる味が加わった物を美味しいと感じます。例えば塩も、ミネラルやにがりを排除した塩味の純度が高い精製塩より、苦味などが残っている塩に人は美味しさを感じるのです。旨味と苦味、渋味、そして香りを併せ持ったお茶は、美味しさを演出するという点で大きな可能性を秘めていると思います。ただ、日本の食材の組み合わせが基本となる日本料理の枠の中だけで新たな使い方を考えようとすると、ハードルの高さも感じます。他のジャンル、例えばフランス料理などにアレンジのヒントや面白いアイデアを見つけられそうです。「この苦味をお茶で出せないか」「この食感を茶葉で再現できないか」など、食材の置き換えを考えてみるといいかもしれません。
 
木本様:私も味の組み合わせのヒントなどは、フレンチよりも他ジャンルの料理から着想を得ることは多いです。お茶は、味の奥行きや赤ワインとは違った渋味、そして色を料理に活かせると考えています。ただ、色をしっかり出そうとすると苦味が強くなってしまうので、いかにバランスをとるかが大切だと今回のメニュー開発で実感しました。
 

 
―訪日外国人への対応として、お茶を使った料理に期待できることは?
 
木本様:韓国や中国の人たちは日本のようなお茶にも馴染みがあります。一方、西洋などでは主に紅茶が文化として根付いていますので、緑茶の若々しい香りや味わいを新鮮に感じるようです。玄米茶の香ばしさなども驚かれるので、ドリンクとして飲むだけでなく、燻製などに使うのも面白いです。
 
内山様:お茶の出し殻を料理に使うのも驚かれるでしょうね、「こんな使い方があるんだ」って。メインを引き立てる食材としていろいろ活躍しそうです。どの国の方にも評判がいいのは抹茶ですが、日本のお茶は茶葉も加工方法も多彩で、種類がかなり多い。その違いやそれぞれの特徴を活かした料理をコース仕立てでお出ししてもいいかもしれません。コンセプトをお茶に特化したお店にするんです。
 

 
―コロナ禍や食材価格の高騰などに、どのように向き合っていますか?
 
木本様:考えても悩んでも、解決できないことはあります。生きていればこんなこともあると、考え方をシフトしました。営業を自粛しなければいけなかった期間、私は空いた時間を自分の技の研鑽や知見を広めることに使いましたし、食材価格が高くなっているのであれば高価な物を無理に使うことはありません。クヨクヨしていては人生が楽しくありませんから、自分に何ができるか、何が大切かを考えて、その時々で柔軟に対応していければいいのではないでしょうか。
 
内山様:同感です。私も休業要請を受けて、料理のことや今後のお店の在り方について考える時間が持てましたし、お店の全面改装に踏み切ることもできました。飲食業界にとっては厳しい状況でしたが、私にとっては、コロナ禍は必要だったと思っています。食材高騰に関しては、例え毎年定番で使っていた物であっても、今年は使わないという選択をしています。
 
木本様:そもそも日本は美味しい物があまりに安過ぎて、もっと適正な評価をすべきであると思います。
 
内山様:お客様は総合的な食の体験を求めていらっしゃいます。それは食材だけで成り立たず、技術、見せ方、コミュニケーション、お店の雰囲気などから総合的に提供できるもの。上質な食体験でしっかりと対価をいただけるようになればいいのでしょう。そう考えて、日本料理のお店であっても堅苦しくならない空間づくり、雰囲気づくりを心がけ、若い世代にも私の経験や知見の全て、そしてこの理念をしっかり継承していきたいと考えています。食事は食べる方も提供する方も楽しくなければ。木本さんのお店はとても楽しい空気に満ちたお店なので、参考になります。
 
木本様:ありがとうございます。内山さんにそう言っていただけるととてもうれしいです。
 

 
 
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【内山 英仁氏プロフィール】
銀座 うち山
料理長
 

 
1969年生まれ、神奈川県出身。
調理師専門学校を卒業後、日本料理店「吉祥 日比谷店」にて5年間修行に励む。その後も様々な日本料理店にて研鑽を積み、オープン間もない「銀座 あさみ」にて浅見健二氏に師事。2002年に独立して「銀座 うち山」をオープンし、2008年から2018年まで「ミシュランガイド」の星を獲得した。茶懐石を基本とした日本料理をベースとしながら、異文化や顧客の思考に合わせた料理の考案、アレンジを得意とする。
 
■銀座 うち山
 

 
〒104-0061
東京都中央区銀座2-12-3 ライトビルB1
11:30~14:30
18:00~22:00
※不定休
https://www.ginza-uchiyama.co.jp/
 
【木本 陽子氏プロフィール】
Restaurant HYÈNE
エクゼクティブシェフ
 

 
1991年生まれ、東京都出身。
辻調理専門学校を卒業後、六本木の「ラトリエドゥジュエルロブション」で修行。その後、料理の世界観を広げるため、自身のルーツである韓国の「ハンミリ」に料理留学する。日本に帰国後、生産者や環境問題などに触れ、新しい世界観でフランス料理を提供する「Restaurant HYÈNE」エグゼクティブシェフに就任。
 
主な受賞歴
RED U-35 2022 ゴールドエッグ
 
■Restaurant HYÈNE
 

 
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前5丁目13-14
19:00~23:30
※月曜・日曜定休
https://hyene.hviewgroup.com/