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【ひしほがたり】第五話:日本の麺を考える~蕎麦×パスタ~

 
― 日本の食文化にはさまざまな種類の麺が息づいています。なかでも、日本料理を代表する麺・蕎麦と、今や日本で広く親しまれるイタリア生まれのパスタを手がけるお二人に、「日本の麺」についていま一度考えていただきます。まずは、長年にわたり蕎麦・パスタづくりに励むなかで感じることについて教えていただけますか?
 
堀井様:海外での現地の方や訪日された外国の方に蕎麦を振る舞うなかで感じるのは、世界的な認知度は発展途上ということです。蕎麦のおいしさを最大限に楽しむための“すする”という食べ方に、いかにして馴染んでもらうかがカギですね。
 
半田様:パスタは日本の食文化に定着しただけではなく、たらこパスタをはじめとした日本の食文化と組み合わさり独自のスタイルに発展していますね。ただ、意外と知られていないのが「パスタの茹で具合」。日本ではアルデンテが好まれますが、芯までしっかり茹できる方が小麦の風味を一層楽しめるんです。
 
堀井様:そこは蕎麦と一緒ですね。蕎麦も芯まで火を通し、冷水でしっかり締めることで香りが立ちますから。
 

 
― 蕎麦を引き立てる名脇役として「蕎麦つゆ」は外せません。
 
堀井様:江戸蕎麦のつゆといえば、旨味が効いた濃い味付け。その厚みのある旨味は、醤油のグルタミン酸とかつお節に含まれるイノシン酸の相乗効果の賜物です。愛用するヤマサ特選しょうゆはクリアな味わいが特長で、蕎麦つゆの輪郭がはっきりするのが良いですね。冷水で締めた蕎麦の味わいを引き出すためには、蕎麦つゆは常温がおすすめ。蕎麦全体が冷えすぎると香りが立ちません。
 
半田様:私も「常温」という状態は、麺をおいしく食べるために重要な要素だと思っています。イタリアでは「パスタ ティエピダ」という常温のパスタが夏でも好まれます。常温だからこそパスタそのものやオリーブオイル、チーズなどの香りが引き立つんです。さらに、飲食店にとっては冷製パスタから常温のパスタに切り替えると、冷水でしめる手間がなくなり作業の効率化にもつながります。良いこと尽くめだからこそ、個人的には常温のパスタを積極的にアピールしています。
 

 
―理想の茹で具合や常温の重要性など、蕎麦とパスタは共通点が多いですね。
 
半田様:実は、イタリア北部には「ピッツォッケリ」という蕎麦粉を使ったパスタがあります。バターやチーズを使った濃厚ソースをからませたメニューは、家庭料理としても親しまれています。
 
堀井様:蕎麦粉はグルテンが少なく硬いので、パスタの形状にするのは大変そうですね。
 
半田様:小麦粉を加えて伸ばしやすくするんです。そこは二八蕎麦と似ていますね。素朴なおいしさですが、「うちの州の味付けが一番おいしい」と地域の人が誇りをもつほどに深く愛されている料理です。
 
堀井様:蕎麦も江戸蕎麦があれば、戸隠蕎麦、出雲蕎麦もある。同じ料理でもその地域ならではのかたちが育まれて、食文化に根付いていく。食の奥深い部分ですね。
 
― お二人は蕎麦とパスタを手がける職人として、今後どのような挑戦をしていきたいですか?
 
半田様:日本の食材や調味料をパスタメニューに取り入れていきたいです。醤油を使ったメニューを試作していますが、醤油の存在感に負けないバルサミコ酢をつなぎとして混ぜる方法に手応えを感じています。日本らしい納得の一皿が出来たらぜひ当店でお出ししたいと思います。
 

 
堀井様:私は蕎麦の海外進出ですね。2020年にニューヨークに出店する予定で、長い目で見て試行錯誤しながら、現地に蕎麦文化を定着させたい。蕎麦はグルテンフリーという世界が注目する特長があり話題性は十分。さらに、当店の看板である更科蕎麦はバジルソースといった欧風の味付けとも相性が良いので、現地の方に好まれる蕎麦メニューを打ち出していけたらと思います。
 

 
半田様:私は10年以上にわたりイタリアとフランスで修行をしてきましたが、その道を極めてもなお海外に挑戦しようとする堀井さんには脱帽です。食文化を発展させるためにも探究心は絶えずもっていたいです。
 
堀井様:こちらこそ、常温のパスタという日本では異端なスタイルを普及させようとする姿勢やぽん酢を使ったパスタメニュー開発など、半田さんの発想は日本人離れしていて刺激になります。半田さんをはじめ、現在の料理界で活躍する若い方々にはオリジナリティがある。それを活かすために、当店では若手の料理人にも新作メニューを積極的に開発してもらっています。お客様を幸せにするおいしさをつくるためには、すべての料理人がやりがいをもって働ける環境が重要だと思っているので。
 

 
半田様:たしかに、スタッフみんなが笑顔で働いている日の方が、理想の味付けを生み出しやすいです(笑)。それほど作り手の精神状態が料理の出来を左右するということですね。オーナーシェフとして楽しい職場環境づくりを意識していきます。また、これから料理人を志す方には、「世界は広い」ということを伝えたい。イタリア料理と一口に言っても、国や地域が異なればメニューや食材、味付けは千差万別。それを知ったうえで、自分が目指すべき料理の指針を決めてほしいです。
 
堀井様:蕎麦もパスタも日本を代表する麺文化なので、料理人にはその新たな1ページを刻むつもりで好奇心をもって突き進んでほしい。そう言う私も、ニューヨークで蕎麦を振る舞うことを想像して、若い方々に負けないくらい日々ワクワクしていますから。
 
 
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【堀井 良教氏プロフィール】
株式会社更科堀井
代表取締役社長
 

 
大学卒業後、八代目である父・良造と共に「更科堀井」を設立。
 
2004年 代表取締役社長就任
2010年 CIAカリフォルニア校“Food of JAPAN”に参加
2012年~ ソウルのそば処「HOMURAN」を監修
2012年 東京オリンピック招致活動でロンドンを訪問
2013年 安倍首相とともにモスクワを訪問
2015年 食をテーマとしたミラノ万博・ジャパンデーに参加
2020年 SARASHINA HORIIニューヨーク開店予定
 
・一般社団法人 全日本・食学会 常任理事
・特定非営利活動法人 日本料理アカデミー 理事・東京運営委員会委員長
・江戸東京きらりプロジェクト推進委員
 
■総本家 更科堀井
 

 
東京都港区元麻布3-11-4
11:30~20:30
※土日は11:00~営業
※定休日:毎週水曜/1月1~3日/8月5~8日
https://www.sarashina-horii.com/
 
 
【半田 雄大氏プロフィール】
ワイン食堂MAREA
オーナーシェフ
 

 
1980年生まれ 東京都出身。
イタリアへ渡り、フィレンツェのワインバーレストランで7年間シェフを務める。
その後ミラノで4年間研鑽を積み、フランス(パリ)のワインバーレストランで半年間シェフとして働いた後、2015年に帰国。
2019年に「ワイン食堂MAREA」をオープン。「イタリアソムリエ協会認定ソムリエ」でもある。
 
主な受賞歴
RED U-35 2014 ブロンズエッグ
 
■ワイン食堂MAREA(マレーア)
 

 
〒166-0012
東京都杉並区和田1-17-17
12:00~14:00(L.O.13:30)
17:30~22:00(L.O.21:00、ドリンクL.O.21:30)
※水曜定休 ランチのみ木曜定休
最新の情報については、Facebook(ワイン食堂MAREA)またはInstagram(@0426marea)をご確認ください
https://r.gnavi.co.jp/n19pyy2n0000/