版画家 浜口陽三の出発 ―ドローイングを含む初期作品から― 2001年10月6日(土)~12月24日(月・振休)

版画家 浜口陽三の出発

初期銅版画作品、カラーメゾチント、スケッチブック、原画、デッサンなど約70点展示。
関連プログラム 展示作品より
浜口陽三はカラーメゾチントの開拓者として、また日本を代表する銅版画家として世界にその名を知られています。しかし、浜口が本格的に銅版画の制作を始めたのは、戦後の1950年前後、40歳頃からでした。昨年の暮れに91歳で死去した作家の版画家としてのスタートでもありました。
最初のメゾチントによる作品は、隅田川とその沿岸風景を題材としたもので、今回の特別展示で紹介しようとするものです。これらの作品はいずれも小型の作品ですが、中間調子の濃淡をもった、詩情をたたえた素朴な画面をつくりだしています。同時に戦後の物資が乏しい時代に、不充分な施設道具を駆使してメゾチントという技法に果敢に挑戦していった浜口の気概が感じられる作品群です。
その当時日本にはメゾチントの技術はほとんど普及しておらず、浜口は最初から独学でこの技術を習得しました。そのため、浜口の技法は、メゾチントの伝統的な価値や技術とは異なる独自の方法を開拓し、その自由な発想は、その後、黒い銅版画に色彩を持ち込むという版画史に残るカラーメゾチントの画期的な開発へとつながっていきます。
本展覧会では、今まで目にする機会のなかったデッサンや原画を含む初期の作品の中から、技法開拓の時代に焦点を当て展観します。自分の思想をより完全に表現できる方法の実現を目指した、浜口の版表現に対するあくなき探求心と、技術に対する厳しい姿勢を感じてもらえることと思います。また、同時に展示するパリ時代のスケッチブックやドローイングからは、版画にはみることのできない、浜口の生き生きとしたユニークな筆致を見ることができます。これらの作品もまた自由な発想の源になった貴重な資料として紹介します。

関連プログラム
10月27日[土] 14:00~15:30
メゾチント制作工程実演+ミュージアムトーク
講師:柳澤 紀子 (版画家) >>プロフィール
実演:薬師寺 章雄 (銅版画家/刷り師)
11月24日[土] 14:00~15:30
ミュージアムトーク
講師:建畠 晢(多摩美術大学教授) >>プロフィール
※ 両日ともにお茶とお菓子をご用意しております。
 

ミュージアムトーク 講師プロフィール
●柳澤 紀子 (やなぎさわ・のりこ)
版画家。1969年東京芸術大学大学院美術学部油絵科卒業。在学中、駒井哲郎に師事し銅版画を学ぶ。1971年から75年までニューヨークに住み、プリントメーキングワークショップで制作。1992年平成4年度文化庁特別派遣芸術家在外研究員。現在は掛川市在住。1969年以降、毎年個展を開催する一方、アメリカ、ヨーロッパ、南米など世界各地で展覧会を開催し国内外で活躍している。主な受賞歴は、1964年日本版画協会賞、1999年
東京ステーションギャラリー賞(東日本鉄道文化財団)、2001年山口源大賞など。

● 建畠 晢 (たてはた・あきら)
美術評論家、詩人。1947年に京都市に生まれる。早稲田大学文学部フランス文学科卒。新潮社、芸術新潮の編集者、国立国際美術館主任研究官(1976-91年)を経て、多摩美術大学芸術学科教授、東京大学講師。1990年、93年のヴェニス・ビエンナーレの日本コミッショナーをはじめ、国内外の多くの展覧会に参画。また現在開催中の「横浜トリエンナーレ2001」のアーティスティック・ディレクターの一人。著書に美術評論集『問いなき回答』(1998年)、詩集『余白のランナー』(1991年歴程新鋭賞受賞)など。


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