【織茂 学-Orimo Manabu-】（ピアニスト・作曲家）
　「ダンスーピアノーダンス」で１つの作品となるように選曲しました。浜口氏の銅版画から受ける第一印象が「クラシカル」と「シンプル」でしたので、バロックや古典派の作品を多く揃える事で統一感を持たせました。今回、ダンスが１つの作品に対して創作するスタンスに対して、ピアノソロは特定の作品をあえて選ばずに、氏の持つ全体の雰囲気から選曲する事でコントラストを持たせ、バランスを整えました。また、演奏面では、１つの作品の流れを大切にするために、特に曲間の時間と呼吸(タイミング)に配慮しました。ピアノの演奏会、ダンスのイベント、それぞれでは見られない、三位一体の瞬間芸術を楽しんで頂けましたら幸いです。

【藤井 咲恵-Fujii Sakie- 】 （ダンサー・コレオグラファー）
　浜口陽三さんの「毛糸」を見た時に、まずは黒=暗いではない黒の中の明るいイメージと、現実に存在する毛糸という物体を見ていると徐々に惑星のように見えて来たこと、この2つを大事にしようと思っていました。音楽はもう決まっていたので、それに合わせて動いてみて曲ごとの動きのイメージを出してみて、それをどう陽三さんの作品とつなげていくかを考えてダンスを創っていったように思います。版画、音楽、タイトルという決まっていることの中で動きを探す作業だったので、そこに委ねながら自分の動きを探っていくというのが面白かったです。

【Von・noズ 久保 佳絵 -Kubo kae-】（ダンサー・コレオグラファー）
　ストーリはなく、シンプルに素材と、技法と、技術と、時間とを積み上げる。これが浜口陽三さんの作品から受け取ったものです。陽三さんの作品へ向かおうとするのではなく、受け取ったものをダンスという言語に持ち込み、今何を感じているのか、身体はどう動きたがっているのかに耳を澄ませる試みでした。
人の手によって削られ完成された"銅版画"、身体で聴く生演奏の"ピアノ"、客席と地続きになった場所で繰り広げる"ダンス"。
　圧倒的に生ものであるものたちが、お客様の視点が入った本番という場で初めて、新たな形で交わるような感覚がありました。

【Von・noズ 上村 有紀-Kamimura Yuuki-】（ダンサー・コレオグラファー）
　浜口陽三さんの作品を拝見した時、シンプルであるという印象と同時に、目には見えない、言葉には変え難い、奥深い何かが存在する感覚を覚えました。メゾチントという銅版画の技法を体験させていただくことで、鍛錬と経過の先に作品が生まれることを体現し、この表現の魅力や奥深さはピアノやダンスにも共通して起こり得るものだと思いました。
あえて身体で何かを表現しようとはせず、ピアノによる生演奏と生身の身体、それぞれの表現方法をごくシンプルに空間に置くことで、浜口陽三さんの作品に新たな光を射し込むことができたらと願いながら踊りました。
　劇場という空間でないからこそ積み上がる作品、それぞれの魅力が引き立つ時間へと変貌し、みなさまの想像力を刺激できていたら幸いです。

　御来場くださいました皆様、誠にありがとうございました。当館において、このような企画は初めての試みでした。
　
　作品の新しい魅力をひき出していただいた出演者の皆様にも、心より感謝申し上げます。