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【匠の皿 vol.1】「みたらし焼餅」東京會舘 鈴木直登総料理長

「みたらし焼餅」は、醤油と同じ発酵食品で相性の良いチーズを使い、幅広い年代の方々に醤油の魅力をあらためて感じてほしいと思い考案しました。主役は彩り豊かな5色の餅で、日本古来の思想である「五行」を表現。生命活動を支える臓器は5つ、食事に楽しさをもたらす味覚も5つと、「5」は私たち人間にとってとても関わりの深い数字です。食育という観点からも、人や自然界を構成する要素を一皿に表現する日本料理の精神性にも触れてもらえればと思います。


餅を色付けするための食材は、パウダータイプを使用するのがおすすめです。5種類の食材はそれぞれ水分量が異なるため、そのまま加えると餅の柔らかさにばらつきが出てしまいます。餅のおいしさは喉ごしで決まりますので、5種類すべてをベストな状態で揃えたいところ。その点、パウダータイプは乾燥しているため柔らかさを均一に保てます。最近では食料品の専門店やインターネットショップなどで購入できますので、ぜひ試してみてください。

餅とビーツや柿といったフルーティな甘味のある食材は、意外な組み合わせだと思います。そのため、異なる特徴の食材同士をうまく“調和”させることがポイントになります。そこで重要な役割を果たすのが「醤油」です。調味料としての存在感はありながらも、主張しすぎない香りと塩気。まさに“料理の名脇役”とも言える醤油が、多種多彩な食材を使用する「みたらし焼餅」のつなぎ役になります。
醤油は扱い方ひとつで料理の味わいが格段に良くなります。例えば、寄せ醤油を作る際には、鍋を火から離して醤油を加えることで、醤油の風味がしっかりと効いた寄せ醤油に仕上がります。さらに、寄せ醤油のベースを水ではなく出汁にすると、醤油の香りと旨味は一層豊かに。「みたらし焼餅」はチーズを使うため動物性のかつお出汁がおすすめですが、昆布や椎茸などそれぞれ旨味成分が異なる出汁をお好みで使い分けてみるのも料理の楽しみだと思います。

あとは細かい部分になりますが、餅を焼く前に醤油を塗ることをお忘れなく。餅と寄せ醤油の間に醤油の層をつくることで、餅と寄せ醤油が馴染みやすくなり、味に一体感が生まれます。このような“小さな一手間”が日本料理においてはとても大事なのです。

「食材を大切に扱い調理する」という考え方は、日本料理の世界に古くから受け継がれてきました。糸賀喜(いとがき)を煎る際には、丁寧に火にかけます。日本料理には「炒める」という調理方法は存在せず、食材に火を通すことを「煎り上げる」と言います。糸賀喜の変化に目を配りながらゆっくりと煎ることで、より香りは引き立ちます。丁寧な作業の積み重ねこそ日本料理の神髄であり、「みたらし焼餅」にはその精神が集約されています。ご家庭で気軽に作り、そして味わうことで、醤油が引き立てる日本料理のおいしさをぜひ感じてみてください。

「みたらし焼餅」のレシピはコチラから