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【匠の皿 vol.21】「野菜飯」 堀内 浩平 氏

 
「野菜飯」は、いわゆる郷土料理ではなく、自分に郷土を思いおこさせる「おふくろの味」です。ごはんに、甘辛く味付けした根菜、季節の山菜やきのこなどを混ぜ込み、錦糸卵をのせた五目ごはんに近い料理といえば、イメージしやすいでしょう。今回は、「おふくろの味」の味わいはそのままに、食感でアクセントを加え、盛り付けにも一工夫して、コース料理の一品としても楽しめるものに仕上げました。
 

 
まずは、野菜の下準備から。野菜煮用の野菜は千切りにします。長さや厚さを揃えると、見た目や口当たりがよくなります。また、全体を包むために半量の人参は桂剥きに。チップス用の野菜は薄く、少し長めに切ってください。
 
千切りにした野菜は、鍋でサッと炒めます。炒める際に白ごま油と黒ごま油を合わせて使うと、黒ごま油の豊かな香りをほどよく野菜にまとわせることができるのでおすすめです。椎茸の戻し汁、「ヤマサ丸大豆しょうゆ」、きび砂糖を加えて軽く煮詰め、バットにあけて冷ましますが、ポイントは、野菜は煮詰め過ぎず、煮汁に漬けた状態で冷ますこと。こうすることで食感を残しつつも味をしっかりと浸透させられます。
 

 
「ヤマサ丸大豆しょうゆ」を使うのは、まろやかでクセのない味わいが、昔から僕の実家で親しんできた醤油を思い出させるから。地域によって普段使いの醤油は異なると思いますが、醤油によって引き出されるこの懐かしさこそが「おふくろの味」の決め手になります。
 

 
桂剥きした人参は少し柔らかくなるまで茹でて氷水で冷まし、薄焼き卵を重ねて、炊いておいたごはん、味噌漬けにしたクリームチーズ、野菜煮、紅生姜をのせ、締めるようにしっかりと巻き込みます。両サイドを切りそろえて皿の上に立てるように盛り付け、パリパリに揚げたチップスをふんわりと立体的にのせて、木の芽を飾れば「野菜飯」の出来上がりです。
 

 
ごはんはどうしてもお椀やお皿で出すものになり、フレンチの締めには少々出しにくいと思っていましたが、人参で巻くことで、フィンガーフードの食べやすさを実現でき、コース料理にも加えられると考えました。つくりたてはもちろん、少々時間を置いてからも、味が染みて美味しく食べられます。
 

 
今回の料理を開発するにあたり、その基本には、「おふくろの味」とそれをできるだけ崩したくないという思いがありました。うるち米ともち米を混ぜたごはんにしたのも、実家で食べていた野菜飯のレシピに倣ったから。もともとはこのような盛り付けで出されるものではありませんが、もち米特有の粘りは仕上がりの形をキープするのにも役立ちました。また、野菜や山菜も慣れ親しんだものばかりです。アクセントにクリームチーズという少々異質な食材も取り入れてみましたが、味噌漬けにすることでごはんや野菜煮とも違和感なく馴染みました。
 

 
主食とおかずを一緒に、しかも手に持って食べられるこの料理の気軽さは、おにぎりに通じるもの。醤油と砂糖が生み出す野菜の甘辛い味付けも、心がほっとするような日本人の食の原風景に存在するものでしょう。郷土料理は地域の文化と共に、そんな誰もが抱く懐かしさや食の体験を受け継いでいくものではないでしょうか。食べる人に自分の故郷やルーツを思い出させるような料理を、僕はつくり続けていきたいと思います。
 
「野菜飯」のレシピはこちら