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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • 自由で粋な気質が生んだ江戸料理。発想の基礎を支えているのが、しょうゆです。

    プロの技 拝見

    waza 江戸末期に幕末の志士が集い、活気にあふれた街、新橋。賑わう駅前から離れ、昔ながらの風情を感じる界隈に「江戸割烹 米村」はあります。1929(昭和四)年に九段で創業し、浜離宮を経て、現在の地へ。新橋は東京六花街(他に芳町(日本橋)、赤坂、神楽坂、浅草、向島)のひとつで、往時は七、八十軒もの料亭が軒を連ねていました。年に一度、芸者の踊りと料亭の食を楽しむ新橋演舞場の特別な催し「東をどり」。そこに米村も、松花堂弁当を提供しています。六つの料亭が同じ献立で各々趣向を凝らす松花堂弁当は、当日ふたを開けるまでどの店のものかわからないという、遊び心ある演出つき。「こんな風に料理で人を楽しませる場所を他に知りません。これも江戸の気質でしょう」と料理長の富田氏は語ります。

    waza1 その江戸気質から育まれた江戸料理を、米村では時流に合わせてアレンジしてきました。「参勤交代のおかげで全国からさまざまな食材が持ち込まれ、食の豊かな街でした。何でも揃う、いまの東京と同じです」と富田氏。京都の公家、大阪の商人に対し、江戸は武家文化。料亭は接待に使われ、華やかでおいしい料理が求められたそうです。それはいい食材を忌憚なく使う、いまで言う創作料理。たとえば、魚の身をねじって串に刺し、卵の黄身をぬって焼く、太刀魚の蝋焼。当時としてもかなり斬新な調理法でした。「残った白身も使わない。節約をよしとする日本的な常識からも外れています」。型破りで、自由闊達な江戸っ子の心意気。その意志を受け継ぎ、富田氏もまた型にこだわらず、繊細で印象的な新しい江戸料理を生み出しています。

    waza3 ヤマサしょうゆとの付き合いは、米村に入店して以来のこと。「いまは地方のあらゆるしょうゆが手に入るので、新しい味を試すこともあります。しかし、ヤマサに代わりはありません」。味を合せて数日寝かせても、「こうなる」という方向性を読めるのがヤマサ。「いいしょうゆは他の調味料を使わなくてすむので、素材の味も料理人の感性も活きる」と言います。しょうゆは、だしと同じく料理のベース。「土台としてゆるぎないもの。信頼しています」。

    waza4 「料理人は素晴らしい職業、花形です。まずは基礎をしっかりと学ぶこと。そして、自分がどういう料理人になりたいかがスタート。自分のやりたいこと、進みたい方向を強く意識することが大切です」と富田氏。基礎が盤石であれば、何にでもチャレンジできる。江戸料理も基礎にしょうゆがあったからこそ、大きく花開いたのでしょう。

    「江戸割烹 米村」
    東京都中央区銀座7-17-18
    電話:03-3541-1723

    ●江戸割烹 米村/料理長 富田正藤 氏

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