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  • 日本一の「ふく」の取扱量を誇る南風泊市場

    インタビュー

    この日の養殖ふくはキロ当たり3,000円程度。天然ふくは1箱36,000円。

    この日の養殖ふくはキロ当たり3,000円程度。天然ふくは1箱36,000円。

     午前3時20分、夜明け前の下関。南風泊市場にベルの音が鳴り響きます。これが競り開始の合図。前日に水揚げされた天然ふく、養殖ふくの入ったカゴがズラリと並べられ、競り人の威勢のいい掛け声で始まります。

     南風泊市場の競りは、競り人と仲買人が筒状の黒い布袋の中で指を何本握るかで値段を決める、独自の「袋競り」。仲買人はふくの大きさはもちろん、背中がすれてないか、目が落ちくぼんでないかなどで鮮度を見極めます。尻尾やひれも重要なポイントで、逃げた養殖ふくかどうかも見ればわかるそうです。

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    ふくの養殖池

    ふくの養殖池

    山口県漁業協同組合 販売部長 秋守 健 氏

    山口県漁業協同組合
    販売部長
    秋守 健 氏

     天然のとらふくは、その資源量の減少のため、2014年より水産庁によるトラフグ資源管理検討会議」が年に1回開催されています。稚魚を放流する、産卵期は獲らない、小さいふくは再放流するなど、生産者側ではさまざまな取り組みを行っています。それでも、年々天然のとらふくは希少になりつつあり、山口県漁業協同組合の秋守健さんは、「漁協では天然ふくはもちろんですが、養殖ふくに力を入れています」と話します。

    温暖化で漁場に変化

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    1鉢300mもある延縄。ふくが噛みきらないよう針金製。

     西日本一の延縄船団を有した越ヶ浜では、全盛期と言われた昭和57年前後の天然ふくの水揚量は年間75トン。この地で50年以上ふくの延縄漁に携わっている吉村正義さんは、「当時はまだ養殖がなかったから、とらふく1箱6匹で92万円という高値がつくこともありました。越ヶ浜だけで100隻以上の延縄漁の船団がいましたね」と振り返ります。

    吉村 正義 氏

    山口県漁業協同組合
    理事
    吉村 正義 氏

     吉村さんの主な漁場は、萩の沖、見島と対馬近辺。「波の荒い方がいいふくが獲れる」と言います。ただし、近年は温暖化の影響で水温が上がり、寒流魚のふくは若狭湾や新潟辺りまで北上。漁場も少しずつ変化してきています。山口県漁協の秋守さんも「獲れる魚や産卵時期などがずれてきていることは肌で感じます」と口を揃えます。

    餌で決まる「ふく」の味

     伊藤博文も感嘆したというふくの味。そのふくが何を食べているかによって、大きく味が変わると吉村さんは教えてくれました。
    「ふくは元来、貝やえび、かになどの甲羅の固いものを食べます。実は、その貝の毒がふくの肝に溜まるんです。養殖ふくには、その毒に起因するといわれる貝やヒトデを食べさせないので、毒がほとんどないとも言われます。天然ふくは、貝などを食べるおかげで身がしまって弾力があるんです。同じ天然でも伊勢湾で獲れるふくは、下関のふくとはまた味が違う。餌が違うからでしょうね」。

    ふく料理公許第一号店になった春帆楼のふく刺し。器の絵柄が透けて華やか。

    ふく料理公許第一号店になった春帆楼のふく刺し。器の絵柄が透けて華やか。

     天然ふくか養殖か、食べる際に見分ける方法も教えてくれました。ふくの刺身をしょうゆにつけてパァッと油が浮いたら養殖ふく。養殖はイワシやサバを食べているので身にも油分が多くなりますが、天然ふくにはそれがないそうです。

     近年、越ヶ浜の延縄漁船の隻数は全盛期の10分の1にまで減っています。漁場の変化だけでなく、一度海に出ると4、5日は戻れない厳しい漁。若い世代の担い手がいないことも一因です。それでも70歳を越える吉村さんは、いまもシーズンとなる11月から2月はほとんどを船の上で過ごします。

    春帆楼

    春帆楼

    「天然ふくは1匹10万円の値がつく時もある高級魚。そんな魚を釣っているのが、やはり漁師の誉れだね」と笑う吉村さんに、下関のふく漁の厳しさの中にある魅力を感じとりました。

    取材協力/山口県漁業協同組合・下関唐戸魚市場㈱・春帆楼

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