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  • 世界で愛された有田焼

    インタビュー

     1616(元和2)年、朝鮮人の陶工である李参平(日本名は金ヶ江三兵衛)らは有田に移住しますが、ここで陶石を発見し、日本で初めての磁器製造に成功します。後に中国から入ってきた色絵技術を、初代酒井田柿右衛門が実用化。1640年代に、美しい絵付けの有田焼が完成します。

    鈴田 由紀夫 氏

    九州陶磁文化館館長

    鈴田 由紀夫 氏

     佐賀の山奥の小さな町、有田の磁器が現在まで長く愛されてきた理由は何でしょうか。佐賀県立九州陶磁文化館の館長を務める鈴田由紀夫さんは「泉山(いずみやま)の良質な原料に恵まれたこと。美しく耐久性があり、使いやすさが有田焼の特徴。だから日本初の磁器産業として発展してきたのです」と説明します。さらに当時、世界の磁器市場を独占していた中国(明)が清朝になり、禁輸(海禁)したため、磁器の需要が有田焼に集中。国内では〝伊万里焼〟と呼ばれた有田焼が、一気に海外に広まります。

    「デザインや用途のまったく異なる、ヨーロッパの貴族向けの装飾品と、日本国内向けの食器。それを同じ時代に、同じ職人たちが生産していたのが驚きです。この柔軟さも、有田焼の魅力のひとつですね」。

    人間国宝の器で食事をする豊かさ


     

     海外では装飾品や美術品として人気を博した有田焼ですが、本来の魅力は食器にある、と鈴田さんは考えます。

    「手にとり使ってみて、いいなと思う。これが本来の有田焼の価値。食事もおいしくなり、鑑賞性もある。暮らしを豊かにするのが有田焼ですね」。

     2016年夏、佐賀県はふだん触れることのできない人間国宝の器で佐賀の食材を楽しめる「USEUM ARITA」(ユージアム アリタ)という期間限定イベントを実施。場所は九州陶磁文化館のアプローチデッキです。

    「佐賀県民の夢を叶えるレストランにしようと始まったのですが、料理人が〝これだけ良い器にのせる料理には…〟と、採算度外視で食材にもこだわったようです」と鈴田さん。リピーターも大勢出て、想像以上の大反響でした。

    器との対話から生まれる和食




    ❶江戸時代の有田焼の歴史を柴田夫妻コレクションでたどれる九州陶磁文化館❷蒲原コレクション(有田町所蔵・佐賀県立九州陶磁文化館寄託)❸伊万里港。ここから世界へ有田焼が広がった❹登り窯の耐火煉瓦(トンバイ)や窯道具を塗り固めたトンバイ塀の残る通り❺李参平らが陶石を発見した泉山磁石場❻吉右ヱ門製陶所❼丹念な手仕事からきょうも有田焼は生まれる❽絵付けや焼成を待つ大量の素焼きの器が囲む工房❾サンドブラストを用い、釉薬(うわぐすり)のツヤの違いで描く「光描」

     「いま、和食器のような器使いをする海外のシェフが増えてきています」と語るのは、有田焼の窯元、吉右ヱ門製陶所16代目の原田吉泰さん。フランスで開催されるシラ国際外食産業見本市にも出展し、和食器への関心の高まりを肌で感じています。

     東京芸術大学で鋳金を専攻した原田さんは、研磨材を吹き付けるサンドブラストを使って白磁の器に絵付けをする「光描」(こうびょう)という独自の技法で注目されています。

    「サンドブラストで何かできないかと考えていたとき、シンガポール人のシェフから『有田焼の伝統的な模様を真っ白で表現してほしい』と言われたのがきっかけです」。

     光描で色鍋島の毘沙門や更紗紋などの伝統文様を描いた大皿は、有田国際陶磁展で、経済産業大臣賞(最高賞)を受賞しました。しかし、いずれは伝統的な有田焼へ、古典回帰の時代が来るのではないか、と原田さんは予想します。

     鈴田さんも有田焼への思いを打ち明けます。「海外のシェフは白い食器を好みます。〝器は料理を描くキャンバスだから絵柄は要らない〟と。でも日本の料理人は、器に描かれた世界とどう料理で対話するか、そこから始まります。これが日本文化独特の感性。そうした和食器の使い方も伝わるとうれしいですね」。

     400年の歴史を経て、新たな第一歩を踏み出した有田焼。もう一度世界を魅了する日も、そう遠くはないかもしれません。

    原田 吉泰 氏

    吉右ヱ門製陶所16代目

    原田 吉泰 氏

    取材協力/佐賀県立九州陶磁文化館・吉右ヱ門製陶所

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