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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • 青く深い海と立山連峰の恵みがもたらした「富山湾の宝石」

    インタビュー

    富山ブランド、「シロエビ」

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     2015年春、北陸新幹線の開通で注目を集める北陸地方。魅力的な食材も豊富にありますが、近年広くその名を知られるようになったのが「シロエビ」です。希少性が高く、専業で漁を行っているのは全国でもここ、富山湾のみ。毎年4〜11月の漁期には、その上品な甘みを求めて多くの人々が富山を訪れます
     表層に暖流の対馬海流、深層に日本海の冷海水が流れ、日本海の魚介類800種類のうち約500種類が棲息するという富山湾。眼前に悠々とそびえる立山連峰からは山の栄養をたっぷりと含んだ水が、一級河川の神通川などを経て注ぎ込まれ、多種多様な魚介とプランクトンを育んでいます。港から漁場までの距離が非常に近く、網ですくうように漁ができることから「天然のいけす」とも呼ばれています。富山市岩瀬漁港からは船で5分も沖へと出れば、水深200〜300m、最も深いところで1000m超。その海の色から地元で「藍がめ」、また「おぼれ谷」とも呼ばれる深海底を、シロエビやカニなどが好み、住処としています。

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    30年前は乾燥させ煮干しに

     「シロエビの漁場にも、港から10分で行くことができますよ」と岩瀬の漁師、網谷一吉さん。漁は小型の底引き網漁船で行われ、冬場はズワイガニ、甘エビなどを水揚げしています。ここ岩瀬漁港では6隻の船がシロエビ漁に携わり、10トン以下の漁船に一隻あたり6〜7人の漁師が乗船します。シロエビ漁はそれだけ人手のかかる漁だといいます。出港は平均して一日2回。昔は日に10回も漁に出た事もあったそうですが、現在はシロエビの資源保護に努めており、初回に小さなシロエビがかかった日は、その後の漁に出ないよう組合で制限しています。

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     乾燥して煮干しにしたり、桜海老の代用に赤く染めた頃もあったというシロエビ。地元では以前から刺身や天ぷら、海老しんじょうにして食べていましたが、「現在のように広く知られるようになったのは、何よりも冷凍技術の発達のおかげです」と、とやま市漁業協同組合参事の八ツ橋正則さん。水揚げされたばかりのシロエビは殻が剥きにくいため、まず急速冷凍し、すべて手作業で剥き身にします。それを解凍すると、刺身になります。その甘みのある味が関東で広まり、他県からも人が訪れるようになったといいます。認知度の向上とともに、新商品の開発も盛んになりました。以前は廃棄していた頭や殻をフリーズドライ製法で粉末にし、シロエビの風味を活かしたせんべい、ラーメン、炊き込みご飯の素、お吸い物などに利用。無駄がなくなり、魚価の上昇にも繋がりました。

    漁場の利をさらに活かして

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     「富山湾のシロエビ」として地域団体商標登録したのは2013年。以来、メディアの取材件数が年々増えつづけ、漁協、漁師とも全面的に協力してブランド化を進めています。おかげでここ数年シロエビの人気は高く、供給はつねに不足気味。そのためか富山市内の回転寿司店などでは、地元産とは鮮度の異なる外国産も使われているようです。漁協では、味の異なる外国産を富山産と勘違いし、〝シロエビとはこの程度のもの〞と受取られるのを危惧しています。
     「安心して新鮮なシロエビを食べていただくために、生産者として、できることは全てやっています」と漁師の網谷さん。2007年頃には殺菌効果のある冷海水装置を船に設置。漁場から港までを10 分、選別に10分、冷凍に10分というラインの一翼を担っています。恵まれた漁場の利を最大限に活かし、一分でも時間を縮めることへの努力を惜しまない。おいしいものをおいしく食べてほしいという生産者の情熱が、「宝石」の味に、よりいっそう磨きをかけているのです。

    ●取材協力/とやま市漁業協同組合岩瀬支所、磯料理松月

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