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  • 糀のすごい底力

    インタビュー

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    いまでこそブームと言われますが、塩糀は昔からありました。私の家は250年続く造り酒屋で、冬になると越後(新潟)や南部(岩手)から杜氏さんがやってきて、春に最後の仕込みを終えると、糀と塩を合わせて帰っていくものでした。糀が腐らないよう塩を使ったのですね。それをかき回してできるのが塩糀。北日本では塩糀を三五八とも呼びます。塩を三、糀を五、炊いたご飯を八の割合で合わせることから名付けられ、東北には江戸時代からありました。
     糀が出てくる最古の文献は、奈良時代の『播磨国風土記』(713年)です。その中に、「神様に蒸した米を捧げたが、古くなって黴が生えたので酒を醸し、酒宴を行った」という記述があります。ここで重要なのが、黴が生えたこと。黴が立ったのでそれをカビタチといい、それがカムタチ(加無汰知)となり、カムチに変化し、江戸末期から明治時代にかけてカウジになり、現代でコウジとなりました。つまり、コウジの語源は、米に黴が立ったことなのです。
     中国や韓国、東南アジアにも、穀物を団子やレンガ状にしたものに黴を生やした、餅コウジがあります。けれども、穀物一粒ひと粒に黴を生やしたのは日本独自のもの。これを散コウジと言います。また、中国では主に麦に黴を付けたので「麹」と書きますが、日本は米を使いますから、国字(日本人の作った文字)である「糀」が正しいと思います。
     塩糀に食べ物を漬けると、コウジ菌の酵素が肉や魚のタンパク質を分解してアミノ酸にし、味をおいしくします。私も小さい頃から、魚を塩糀に漬けて食べるのが好きでした。特にホッケや鮭の紅茶漬けがいいですね。安い牛のもも肉も、塩糀に漬けてしょうゆとミリンで網焼きにすると、柔らかくなるうえにおいしくなり、弁当のおかずにしたら、アッという間に胃袋に入ってしまう(笑)。塩糀というより糀ですね。糀の力によって、塩糀もおいしくなります。糀には底力がありますよ。

    発酵学者。食文化論者 小泉武夫(こいずみたけお)/東京農業大学名誉教授、鹿児島大学客員教授。食の冒険家、味覚人飛行物体、発酵仮面等の異名を持つ農学博士。発酵文化推進機構代表。著書多数。日本経済新聞で『食あれば楽あり』連載中。

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