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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • 天下無敵のかつお節

    インタビュー

    24-2かつお節は、日本独自の発酵食品です。室町時代から江戸時代初期にかけて誕生し、1674(延宝二)年の書物ではかつお節屋の絵を確認することができます。その同じ年に、オランダのレーウェンフックが顕微鏡で微生物を発見していますから、ヨーロッパで微生物を見つけたとき、日本ではすでにそれを商品化していたと言えるでしょう。高温多湿でカビが生えやすい気候のおかげで、日本の食文化は大変高いレベルに発達していました。魚にカビを生やすなど、造作もなかったのです。
    かつお節作りにはいくつかの段階があります。かつおを三枚におろして茹でたのが、なまり節です。なまり節を燻して乾燥させたのが荒節。荒節を天日で干し、表面を削ったものが裸節。これにかつお節菌と呼ばれるカビの一種を付着させて、中の水分を吸わせます。最初のカビを一番カビといい、六回ほど繰り返しますが、現在では四番カビで完成させる場合が多いようです。この完成品が、本枯節と呼ばれます。
    かつお節は、昆布、しいたけと並んで、日本のだしの三大神器と言ってもいい天下無敵のものです。うま味は上品で優雅。生々しくなく、哲学的でさえあると思います。作り方は全国で統一されており、主な産地は鹿児島の枕崎から土佐、焼津、伊豆までひろがります。昔は銚子や館山でも生産していました。
    また、かつお節は漢字で「勝男武士」とも当て字書きし、男子がかつおのようにつねに活き活きと元気でいられるようにと、江戸時代には縁起物として重宝されました。
    一方、沖縄には「かちゅー湯」という郷土料理があります。「かちゅー」とはかつおのこと。たっぷりのかつお節に味噌、ねぎを入れてお湯を注ぐだけの簡単なスープですが、疲労回復にいいと言われています。私のレシピはさらにお手軽。マグカップにかつお節、しょうゆ、お湯を入れて少々置き、うま味のグルタミン酸が出てきたところでいただきます。忙しいときにも、これを飲むと心がホッと落ち着きますよ。

     

    発酵学者。食文化論者 小泉武夫(こいずみたけお)/東京農業大学名誉教授、鹿児島大学客員教授。食の冒険家、味覚人飛行物体、発酵仮面等の異名を持つ農学博士。発酵文化推進機構代表。著書多数。日本経済新聞で『食あれば楽あり』連載中。

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