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ひしほがたり 第一話:醤油の未来

―今回は日本伝統の調味料である「醤油」をテーマに対談いただきます。まず野﨑さんにお聞きしたいのですが、イタリアンで醤油を使う機会はありますか?
 
野﨑様:4~5年前に修行したイタリアの三つ星レストランや世界的に有名なレストランでは、アミューズのアクセントなどに醤油が使われていました。
 

 
―野﨑さんは現在、醤油を使ったメニュー開発に取り組んでいますか?
 
野﨑様:日本において醤油は馴染みが深い調味料なだけに、少し加えても日本人が口にすると和風のテイストをしっかり感じる料理に仕上がることが今の課題ですね。そこで鈴木先生にぜひお伺いしたいのですが、醤油を使う上で重要なポイントはなんでしょうか?
 
鈴木様:醤油とは「嗅覚」で味わうものだと考えています。私個人の使い方として多いのは、仕上げの香り付け。例えば煮物を作る際、最初に醤油を入れて煮込む方もいるかと思いますが、最後に加えるだけで香りがとても引き立ちます。また、口の中で味わうにつれて、食材と合わさり風味が変化していく点も醤油の魅力です。ただ、醤油は繊細な調味料なので、風味を保つために封を切った後は必ず冷蔵庫で保管してください。
 
―お二人とも醤油に対するそれぞれの考え方をもとに、日々料理と向き合っていることがよく分かりました。ここからは未来に目を向けて、醤油は料理界においてどのような存在になっていくでしょうか?
 
鈴木様:世界中の人々を魅了する調味料になると思います。それを予感させるエピソードがありまして、イタリア旅行中に日本食が恋しくなり、レストランでバターと醤油を使って即席ソースを作ったところ、そのおいしさに現地の人も大絶賛。豊かな香りは、世界に通用すると実感しました。日本料理においては、塩漬けならぬ「醤油漬け」が主流になると良いですね。かつて醤油は主に食材を漬け込むために用いられてきました。漬けた食材だけでなく残った液も調味料として活用できるので、『温故知新』の精神で先人が確立した使い方にも注目してほしいです。
 

 
野﨑様:先ほど鈴木先生の「醤油は香り」というお言葉を聞いて、アクアパッツァの香り付けなど、醤油を活かすアイデアが浮かんできました。身近な調味料である分、使うことに少し抵抗がありましたが、醤油が新しいイタリアンの扉を開く可能性を感じています。
 
鈴木様:また、醤油は日本の食卓に欠かせない調味料として、これからも受け継がれていくと思います。醤油のおいしさは日本人の遺伝子に刻まれているほど。健康効果もありますので、ご年配のみなさんの生き生きとした姿を通じて、若い世代も自然と活用していくことでしょう。
 
―時代の移ろいとともに、料理ジャンルの垣根がなくなりつつあります。
 
鈴木様:たしかにそうですね。そうした潮流の中、イタリアンに醤油を使うことを「邪道」とする方もいるかもしれません。ただ、私は決してそうは思わない。日本にはデミグラスソースに八丁味噌を加えるなど、洋食に日本の調味料が用いられてきた歴史があります。たとえ異国の食材や調味料を使うとしても、料理人の心にしっかりとした「目指す道」があれば、その料理は邪道ではなくなる。特に醤油は優しい風味のオリーブオイルとの相性が非常に良く、イタリアンにも間違いなく合いますので、ぜひ野﨑さんには今後も積極的に使ってほしいです。
 

 
野﨑様:私が開発した「苺と醤油の冷製カッペリーニ」について、先ほどは鈴木先生からお褒めの言葉をいただけて嬉しかったです。日本料理界が誇る巨匠からの励ましを自信に、日本人だからこそ作れる醤油を活かしたメニューを、自由な発想で生み出していきたいです。
 
 
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【鈴木 直登氏プロフィール】
東京會舘調理部部長・和食総調理長
 

 
1953年 9月新潟県生まれ
1975年11月東京會舘入社 調理部 八千代調理係
1986年 4月調理部 八千代調理長代理
1997年 4月調理部 八千代調理長
2002年12月調理部 和食調理長
2005年 9月調理・製菓部 副部長 兼 和食調理長
2009年11月東京都優秀技能者(東京マイスター)受賞
2013年 2月調理・製菓部付部長(日本料理担当)
2013年11月卓越技能賞受賞(厚生労働省)
 
■日本料理 八千代

 
〒100-0005
東京都千代田区丸の内3-2-1 東京會舘2F
ランチ11:30~15:30(L.O.14:30)
ディナー 平日17:30~23:00(L.O.21:30)
     土・日・祝17:30~22:00(L.O.20:30)
TEL:050-3134-4890
https://www.kaikan.co.jp/restaurant/yachiyo/
 
【野﨑翠氏プロフィール】
mon atelier シェフ
 

 
1985年5月24日生まれ 埼玉県出身。
服部栄養専門学校卒業後、都内イタリア料理有名店で基礎を学ぶ

中目黒 B.B.S.dining にて元ジョエル・ロブションの由井恵一シェフに師事。
その後、イタリア・ピエモンテに渡り
Ristrante Casa Vicinaにて修業
帰国後はB.B.S.diningに戻り、スーシェフとして勤務。

2016年 麻布十番【Cast78】シェフに就任
2018年8月 渋谷Mon Atelier シェフに就任。
 

受賞歴
2015年 イタリア料理コンクール優勝
2017年 RED U-35 2017 シルバーエッグ
2018年 RED U-35 2018 シルバーエッグ
 
̻■mon atelier(モナトリエ)

 
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷1-10-12 宮城ビル2F
平日
ランチ 11:30~15:00(L.O.13:00)
ディナー 18:00~23:30(L.O.22:00)
土・日・祝
ランチ 11:30~15:00(L.O.13:00)
ディナー 18:00~22:30(L.O.21:00)
http://mon-atelier.jp/