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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • ヒカド(長崎)、すったて(岐阜)

    四季折々の郷土料理

    ヒカド(長崎)


     土地の産物や文化を背景に生まれてきた郷土料理。冠婚葬祭や四季の行事・仏事の寄合などで共に食され、地域に根づいてきました。その中から ユニークなものをご紹介します。
     江戸時代の料理本に南蛮料理として登場する、長崎の「ヒカド」。ポルトガル語の「細かく刻む」を意味する、「Picado」に由来しています。ブリやカジキマグロ、大根、にんじん、さつまいも、しいたけ、ネギ、鶏肉などたくさんの具を、1.5cmほどのサイコロ切りにして出汁で炊き、すり下ろしたさつまいもを加えてとろみをつけます。いうなれば和風シチュー。サラッとしたとろみと、出汁の風味がごはんによく合います。和洋折衷の趣きがあるので、青い器にぴったりですね。残念ながら若い世代はあまり食べないようで、おばあちゃんが作っていた料理・・・という声を聞きます。美味しいのはもちろんのこと、土地の歴史に根ざした郷土料理なので、若い人たちにもっと食べてもらえたらと思います。

    すったて(岐阜)
     「すったて」はすりたて汁とも言い、どぶろくに似ていることからどぶ汁とも呼ばれます。合掌造りで有名な世界遺産・岐阜県白川村の郷土料理です。ひと晩水に浸した大豆を、大きなすり鉢で滑らかになるまですりつぶし、その後しょうゆ、味噌を加えて固まる直前まで煮込んだ、とろみのある濃厚な汁です。口当たりはなめらかで、フワフワとしています。もともと家庭料理ですが、近ごろ地域おこしで「すったて鍋」として開発され、飲食店でも提供されるようになりました。地元の豆腐店でも「すったて」を販売しています。晩秋から春にかけて 雪深いこの地で、地域の寄合いの際に皆で一緒に食べる料理として受け継がれてきました。浄土真宗の報恩講ほうおんこうなどの仏事でも食されます。作るのに時間のかかる料理ですが、いまはフードプロセッサーのような道具もあるので、それらを上手く利用していただきながら、長く受け継がれることを願っています。



    清 絢(きよし あや)

    清 絢(きよし あや)
    食文化研究家。上智大学文学部史学科在学中より各地へ赴き、郷土食を調査研究している。京都光華女子大学真宗文化研究所学外研究員、一般社団法人和食文化国民会議調査研究部会幹事。

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