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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • 食材の宝庫・淡路島で身近な小魚が導いた島おこしの奇跡

    食材について

    しらすの生食が、いま大人気

    hishiho27-shokuzai1 メディアで度々取り上げられ、ここ数年、生しらすがブームです。火付け役となったのは江ノ島の有名店とも言われ、その人気は瞬く間に全国へと広がりました。そうした中で、淡路島の岩屋漁港は生しらすの商品化に取り組み、ほんの数年で飛躍的に売上げと知名度を伸ばして注目を集めています。明石海峡といえば、タイ、タコ、ハモ、穴子など多彩で身のしまった魚が育つ、全国に名高い漁場。高級魚が数多く揚がる海で、生しらすはどんな存在だったのでしょう?

    kishimoto 「目の前に溢れんばかりにいる小魚ですよ。身近すぎたのか、以前は気にもとめなかった」と語るのはベテランの漁師であり、北淡路ブランド推進協議会の理事、岸本保さん。しかし、他の地域では飛ぶように売れていることを耳にします。「うちのしらすも、たくさんの人に喜んでもらえるのなら」と、考えが変わってきたそうです。

    鮮度が自慢のしらすをあえて冷凍

    hishiho27-shirasu5 平成23年の夏、淡路島岩屋漁協も生しらすの商品化に向けて動き出します。「生」が売りゆえに、何といっても鮮度が命。そして漁場はすぐ目の前、早ければ10分で水揚げできるという好立地です。漁師たちは船上で揚がったしらすを氷でしめるなど下処理をし、漁港ではセリの時間を極力短縮した「先取り」(生しらす用の魚を先に確保する)というシステムを導入しました。午前中に出荷すれば、昼には市内の飲食店や宿泊施設で生しらすを食べることが可能です。しかし、岩屋では味の安定と安全を第一とし、しらすの冷凍に踏み切りました。「朝揚がったしらすを昼に食べてもらえれば、最高のものを100点満点で出せます。でも夕方には、40点、30点になってしまう。だったら冷凍することで、すべて80点をとろうよ、と。それならどなたにも同じおいしさで、安心して提供することができますから」

    hishiho27-shirasu3 岩屋はイカナゴの産地でもあり、元々魚の加工技術が発達した漁港でもありました。また、昔から仲買の※カンカン部隊の細かな要望に、素早く応えてきた経験もあります。漁協、加工業、飲食店、道の駅が一つになった北淡路ブランド推進協議会は、団結して新しい企画に取り組み、同年秋には生しらすの商品化を実現させました。

    町おこしから、島おこしへ

    hishiho27-shirasu4 「これは10年に一度のヒット商品になる。ぜひ町おこしにつなげよう」という協議会メンバーのひと言から、生しらすへの取り組みがさらに加速しました。初年度の平成23年には28店舗だった淡路市内加盟店も、ブームに乗って平成26年には48店舗にまで拡大。当初は淡路市内のみでの取り扱いでしたが、次第に島全体へと広がりました。

    tanakashi 冷凍しているので通年食べることは可能ですが、販売はゴールデンウイーク前から11月末までとあえて期間を限定しています。「生しらすの漁期に合わせて、旬をつくっています。食べ物で、四季を感じてもらえれば」と、道の駅あわじの田中孝一さんは語ります。一時通販も試しましたが、解凍手順を徹底してもらいたいため、すぐに停止。個人への販売もしておらず、淡路島の生しらすを食べることができるのは加盟店のみとなっています。

    hishiho27-shirasu2 いま、往復5000円ほどかかる明石海峡大橋を経て、多くの人々が生しらすを食べにやってきます。連休中の道の駅あわじでは、一日で1700杯を売り上げた日もありました。目の前にいる小さな魚たちがたくさんの人を島に呼び寄せるのが、本当に不思議でならないと言う岸本さん。「漁師をずっとやってきて、こんなに喜んでもらえる食材ってないんですよ。生しらすをきっかけに、タイ、タコ、穴子など、淡路島の魚の味をもっと多くの人にわかってもらえれば、というのが私たち漁師の想いですね」。現在は淡路島でしか食べることのできない、生しらす。今後は、全国の方に淡路島のしらすを知ってもらうため、つくだ煮などに加工した商品の検討も進めているそうです。淡路の海の豊かさをより広く伝えたい、その実現を目指した取り組みは続きます。

    ※カンカン部隊:魚の行商人。港で魚を買い付けた魚をブリキの缶などに入れ、街で売り歩いた。現在は車両販売も行う。
    ●取材協力/北淡路ブランド推進協議会、道の駅あわじ

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