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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • 秋は菊花、べったら、ゆず白菜

    四季折々の漬物考

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     菊は、愛でるだけでなく、古くから食用にも使われてきました。多くは刺身のつまとしてですが、東北地方では漬物にも利用されています。「菊花漬」に使われる菊は、大輪の〝阿房宮〞(青森、岩手)、薄い紫〜ピンク色の〝おもいのほか〞〝もってのほか〞(新潟、山形)など。「おもいのほか、おいしかった」「嫁に食べさせるなど、もってのほか」など、その名前の由来も楽しいものです。作り方は、食用菊を30%の塩、10%の酢に合わせ、重石をのせて漬けます。加工するときは、酢を加えた熱湯で茹でます。花びらを蒸して板のり状に干した、菊のりを使った漬物もあります。岩手の花巻漬は、菊のりで瓜の漬物(金婚漬)を巻いたものです。
     「べったら漬」は、東京の名産漬物です。江戸時代より、毎年10月19日には日本橋宝田恵比寿神社周辺の日本橋・大伝馬町・堀留町・人形町界隈でべったら市が開かれ、売り出されます。皮をむいた大根を塩漬して、砂糖・水アメ・アルコールで下味を付けます。さらに米糀・米飯・増粘剤を練ったものを加えて、袋詰めします。べったら漬とたくあんの異なる点は、大根を干さないことです。江戸時代の将軍徳川慶喜も好んで食べたという「べったら漬」。太い方が歯触りがあり、私としてはベスト10に入る漬物です。
     「ゆず白菜漬」は、白菜の丸漬と、2㎝程に切った刻み漬があります。塩2.5%で漬け、ゆずの皮の細切りと一緒に小袋に入れます。白菜は緑色の葉の部分を入れた方が、製品として人気があります。白菜漬は生産量が多く、家庭でできる漬物です。ゆずの人気が高まり、いつしか風味として加わりました。食物繊維も豊富で、女性に勧めたい漬物のひとつです。「べったら漬」同様、〝野菜 風味主体の漬物〞で野菜の歯ごたえを愉しむタイプ。浅漬、菜漬がこれにあたります。いわゆるお新香のことで業界用語で新漬ともいいます。

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    前田安彦(まえだやすひこ)
    宇都宮大学名誉教授。全日本漬物協同組合連合会常任顧問。50年に及ぶ漬物研究のデータを集約した『漬物学 その化学と製造技術』(幸書房)、『新つけもの考』(岩波新書)など著書多数。

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