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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • あざら(宮城)、つとっこ(埼玉)

    四季折々の漬物考

    あざら(宮城) 土地の産物や文化を背景に生まれてきた郷土料理。冠婚葬祭や四季の行事・仏事の寄合などで共に食され、地域に根づいてきました。その中からユニークなものをご紹介します。
     宮城県気仙沼で春先に食べられるのが「あざら」。近海でとれるメヌケと白菜の古漬を合わせ、酒粕で炊いたものです。メヌケは深海魚で、釣り上げるとき目が抜け出ることからその名がついたとか。小さめの赤魚で代用されることもあります。行事食というより春の日常食で、主に白菜を漬ける家でつくられます。魚を水から煮て骨をとり、別の鍋で白菜の古漬を塩抜きし、その後合わせて煮込むため3時間はかかる手の込んだ家庭料理です。酒粕と味噌でとろとろに炊き、好みによって唐辛子やニンニクを入れるので、風味の違いを楽しみに家々で交換しあうことも。何とも複雑な味ですが、ごはんのおかずはもちろん、お酒にもよく合います。震災後は地域の活性化のため、あざらグランプリも開かれています。

    つとっこ(埼玉)
     語感の楽しい「つとっこ」は、埼玉県秩父郡小鹿野の行事食。住民総出の一大イベントだった田植えの時期に、いまもつくられます。田んぼの主が、手伝ってくれる人への小昼飯として用意し、神棚にもお供えします。もち米とうるち米、柔らかく煮た小豆を2枚の栃の葉で巻いて縛り、鍋で茹でます。キビなど雑穀を混ぜる場合もあり、素朴な味わいです。私も試しましたが、米が膨らむのを想定して葉を巻くのが難しかったです。ちまきのように葉を使う料理は全国にありますが、栃の葉は珍しく、他には群馬県上野村にあるくらい。ほどよく生長した葉を取るのに山へ入るところから始まるので、手間はかかりますが子どもにとって楽しい体験になるでしょう。すえ永く受け継がれてほしい、郷土料理の一つです。

    清 絢(きよし あや)

    清 絢(きよし あや)
    食文化研究家。上智大学文学部史学科在学中より各地へ赴き、郷土食を調査研究している。京都光華女子大学真宗文化研究所学外研究員、一般社団法人和食文化国民会議調査研究部会幹事。

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