
天ぷらは、もともと江戸前の魚を揚げるもの。野菜は長い間添え物でした。「和食、中華、フランス料理、どれも多くの野菜を扱うのに、魚だけで料理と言えるだろうか?」そう考えた近藤氏は、野菜の天ぷらに注力しました。「これは天ぷらではない」と言われながらも試行を重ね、野菜の味と香りを最大限に活かす衣の薄い天ぷらを考案。「てんぷら近藤」といえば、野菜の天ぷらと言われるようになりました。人気のさつま芋の天ぷらは、30分じっくりと時間をかけて揚げ、一部が生の状態で天ぷら鍋から取り出し、余熱で中まで火を通します。見た目にも美しい人参の天ぷらは、天ぷらの”概念”を覆したメニュー。元来のように衣で固めて揚げるのではなく、千切りにした人参を天ぷら鍋の中にサッと散らし、箸でかき集めながらまとめ揚げます。「イメージは、フランス料理の飴細工」。
「天ぷらを世に広めるのが私の務め」と語る近藤氏。『天ぷらの全仕事』を出版し、自らの調理法を公開しました。「技術を伝承しないと料理が後に残らない。天ぷらを食べない子が増えるばかり」。台湾でも出版が決定し、現地での出版イベントにも立会います。
いまも毎朝5時の仕込みを欠かしません。自分でこうと決めたことを、やり続けるのが大事だと言います。「山の上」時代から、しょうゆはヤマサです。「自分に合うのはヤマサの味。ヤマサがうちの伝統を守っていると言ってもいいかもしれない。良いものは良い、だから使い続けますよ」。
修業時代は失敗もしました。でも失敗は若い時こそできること。「恐れず、大きなことに目を向けて。ただ教わるのではなく自分で考えること」。若い頃はよく絵を鑑賞し、瞬間的にどう感じるかを学びました。料理も同じ、一瞬でおいしく見せる必要があります。「いまも仕事に飽きることがありません。仕事は”想い”でやるもの。お客様においしいものを食べて欲しい、それが私の想いです」。
●てんぷら近藤/店主 近藤文夫 氏