みずみずしくさっぱりとした「水なす漬」は、夏の漬物の代表格。なすはインド原産で、奈良時代には日本へ渡来し、各地へ広まりました。水なすが、産地である大阪・泉州地方で栽培され始めたのは江戸時代。田んぼ脇でも栽培され、農作業中の水分補給用として生食もされていたそうです。「水なす漬」は変色しやすいため、色止めがポイントです。塩6%・焼みょうばん0.6%の混合物で色止めをし、なすと同量のビタミンC0.6%の水溶液に三日間漬けて褐色変を防ぎます。
わさびの効いた「山海漬」は、夏の冷酒に合う一品。わさび漬と同様の酒粕に、糖・アルコール・数の子・脱塩大根・脱塩きゅうりを加えます。数の子が多いほど高級とされ、ロシアやカナダなど海外産も増えています。開発されたのは昭和初期の長野県ですが、生産者が新潟に移り、いまでは新潟県の名産品になりました。「山海漬」とわさび漬は、漬物の分類上〝調味料の味主体の漬物〞に属します。塩蔵した野菜を脱塩・圧搾して調味液に漬け、熟成させて漬け上げます。古漬ともいい、新生姜・福神漬もこれに含まれます。
冷やして食べるとなんともおいしい、きゅうりのキムチ、「オイキムチ」。オイソバキともいいます。きゅうりの浅漬に縦に切れ目を入れ、大根とにんじんの千六本の塩漬、唐辛子・にんにく・生姜を混ぜた薬念(ヤンニョン)をはさみ、塩辛汁で甕に仕込みます。これを白菜で作ると、ペチュキムチになります。ただし韓国では、日本ほどオイキムチを食べないようです。
もともとキムチは朝鮮半島の厳しい冬に備えた保存食で、最初は野菜の塩漬であったそうです。私も昭和30年代、新宿の韓国食材店で、よくキムチを買い求めました。当時はあまりに辛く、洗って食べたものです。キムチは平成8年にタクアンを抜き、国内の漬物生産量で一位となっています。
前田安彦(まえだやすひこ)
宇都宮大学名誉教授。全日本漬物協同組合連合会常任顧問。50年に及ぶ漬物研究のデータを集約した『漬物学 その化学と製造技術』(幸書房)、『新つけもの考』(岩波新書)など著書多数。