濱田（以下　敬称略）：
はじめまして。写真家の濱田祐史と申します。今回このような展示の機会を与えていただきありがとうございました。そして今日お集まりいただいた皆様、ありがとうございます。

最初に浜口陽三さんの作品について一言、（図録と）印象が全然違いました。黒の中の色の表情がすごく豊かですよね。カラーメゾチントの黒の中にも色彩が少しあって、黒の表現という意味で、写真ではちょっと表せない。白黒のようでカラ―で、カラ―だけど白黒っぽい印象というのが魅力的だなと思いました。
――浦さんは浜口さんの作品をどう思われましたか？

浦：
そうですね。私も今回はじめて浜口陽三氏の作品を生で見させていただいたんですけど、黒の中に浮かび上がってくる絶妙な色が印象的で。ぼわっと浮かびあがってくる中にすごい繊細な色がたくさん見える。
マチエールとともに、静けさの中にある何か不思議な時のながれみたいなものがとても印象的です。

濱田：
構成も独特ですね。写真は基本的に枠があるので、枠があってその余白が基本的に白なんですね。浜口さんの場合はコンポジションする上で、黒の画層の中にコンポジションしているっていう意識がすごく感じられて。こういう発想ってすごい面白いなと思いましたね。

濱田：
では、自分の制作について話をします。
写真には撮影とプリント、二つの工程があります。
撮るという行為は減色法で、RGBという三原色で行うんですけど、プリントアウトの際はCMYという色に置き換えます。僕は普段、アナログフィルムを使った撮影をしていますが、それもまた暗室でCMYのフィルターを使って作業してます。銀塩写真というのですが、撮影や現像の後、印画紙に露光して化学的に発色現像させて色を出して制作しています。

今回の展示作品”C/M/Y”は初めてデジタルプリントを用いた作品です。撮影した後に、例えばＡというイメージとＢという違うイメージを混ぜているんです。始めたきっかけは一枚の写真を剥がせるっていうことをたまたまインターネットで動画を見たんです。それはフォトショップで混ぜるのではなく、昔からあるポラロイドトランスファーという技法のデジタルバージョンといった感じです。ポラロイドを水につけておくと膜目がびりっとはがれて紙などに、ぺたっと転写出来るっていう技法なんです。
僕は面白いなと思って遊び心で真似してみたんですけど、水につけたまま寝ちゃったんですね。そしたら次の日の朝、写真が水の中を泳いでたんです、三色に分解されて（笑）。
それで三つに分かれたことから重ねることに興味が出てきて、物理的に三色に分解されたものを幾つか作って、違うイメージと出会わせていくことにしました。ＡでもなくＢでもなくＣという新しいイメージをここから生むことができるんじゃないかっていうので。ＣＭＹというシリーズはそういう流れから制作していきました。

｢waterfall｣というサブタイトルは、なんか滝がドドドドって水が落ちてくるイメージがあってつけました。
というのは、今みたいに画像がそこら中にあって、街中や携帯の中にも写真がぱんぱんにあって、『いったい何が写真なんだろう？この時代に僕がやっている仕事っていうのは一体何なんだろう？一枚一枚手を使って制作する意味はあるのだろうか？』と考えていたんです。
自分の写真と自分のものじゃない写真、―例えばパソコンのピクセルや携帯のモニタ―や、100年以上前のフランスで買ってきたポストカードや、滝や川のポストカードなど、脈絡なくこの世の中に存在するイメージを混ぜ合わせていくと、また違ったイメージが生まれてしまうっていうことはどういうことなんだろう？と。
デジタルで合成すると、ズレとか偶然性ってあんまりなくなっちゃうんですよね。物理的に手を使って画層を重ねることで予測できないことが起きるということを体感しながら、既にそこにあったかのごとく立ち現れてくる過程はとても魅力的でもあり恐ろしくも感じました。
能動的に自分で色の画層を動かしていくんですけど、ズレたり破れたりするんですよね。それも何かいいなと思えたんです。　
例えば、三色分解してＡはイエローだけ抜く、Bはシアンだけ使う、Cはマジェンタだけ抜くなどして、いくつかの色の画層を混ぜ合わせて色とかたちの重なって一つになることで、新しい”色とかたち”を見ることができるのが刺激的でした。

司会：
完成形を考えながら重ねていますか？

濱田：
全然考えていないです。いや、大体考えてるけど思い通りにはいかないので思い通りにしようと思いすぎない様にした、と言った感じですね。
もう一回撮影し直す感覚で重ね合わせて制作しています。割と広いテーブルの上でたくさん並べて、どれとどれを出会わせるか、色と形を想像しながら水につけて作業してます。

司会：
失敗と成功の境目は？

濱田：
そこが自分でも判断できなくて。自分の中でこれは”心地いな”、”何か面白いな”とひっかっかったものが成功としかいえなくて。失敗って何なんだろうっていうところも、写真を見る上で楽しんでいただけるひとつなんじゃないかなと思います。

司会：
作品の額装は紙の反りをそのまま見せたり、影が作品に写る仕様になっていたりします。額装にもこだわりがありますか？

濱田：
僕は写真を展示する際に単純に平面としてだけでなく彫刻的にも扱いたいと思っています。
また空間の中でなぜこの紙なのかとか、なぜこのフレームなのかなどもすごく大事なことです。
今回の展示作品に関しては、額の影をつけることでその作品の凹凸感を意識してもらいたいので、フレームやマットも最後まで作品の一つとして考えています。PGIのフレーム部門の西丸さんに相談し、マットを浮かすことや直角にカットすることにしました。あC/M/Yには単純にK（黒）がないんですよ、CMYKのKが無い分、どこかにKを入れたいので、実物の影をKと見立てようと考えて影を入れてます。
写真における色と形の冒険というのは、自分の中の課題のようなものです。

過去のシリーズについて。
“Photograph”というシリーズは、日常にある光を、目で感じられるように写真にできないのかという作品です。
この作品の撮影は、まず風景の中に煙をバラまいてから黒い服を着た僕が風景の中に入り、長時間露光して撮ります。写真と言うのは長時間露光すると黒に反応しなくなるので、僕の姿は消失して、日常のどうでもいいと思われる風景と光が残るというプロジェクトです。photographは”光画”とかつて呼ばれていたこともあり、光をなぞるという意味でタイトルをつけました。

これが”Primal Mountain”というシリーズで、この作品は山を題材にしています。
ちょうど3.11の地震の時で、僕には何を見ても何が本当か特に分からない時だったんですけど『見る』っていうことを通して自分がそう見えていたものが見えなくなったりとか、例えばアルミホイルを
山に見立てていて、山らしく見えたり、この空は本物なのに本物じゃなく見えたりとか。写真における「確からしさ」に対する脆弱性も意識せずにはいられなかったこともあり、作品化する上で写真を『見る』ということを通して、鑑賞した方の頭の中に想像した山が重要だと考え制作しました。Primal Mountainは”初め（最初）の山”という意味でタイトルをつけました。

濱田：
浦さんから何か質問ありますか？

浦：
実験的な作品がすごくいいなと思います。アイディアはどんな時に思いつくんですか？

濱田：
まず、写真はどうしてもカメラとかプリントする機械を使っているメディアで、発想があってもテクニックがないとできない。逆にテクニックだけでもできない。（浜口陽三の）カラーメゾチントもそうですけど、もしそこにないなら、まず技術をつくらなきゃだめで。アイディアはそのバランスを何となく分かった上で普段は忘れていて、いつもぼんやりしたときに思いつきます。だいたい目の前にころがっていますね。
浦さんはどうですか？スクラッチのアイディアじゃないですけど、最初にやるきっかけっていうのはどういうものだったんですか？

浦：
私は日常生活の中で何げなく見えた風景とか、その時の感情とか。そういうものを表現するのにこのスクラッチが自分に合っていると感じます。

濱田：
僕は（浦さんの作品が）写真的だなと思ったんですよ。クレヨンを塗った後にスクラッチで減らしていく作業ってRGBの減色法的で写真撮影みたいだな、と思った。逆に僕のC/M/Yの方が写真ぽくないんですよね。印刷したものをコラージュの様に物理的に足していくことは、写真っぽくなくて、どちらかというと浦さんのやっていることの方が撮影行為に似ているんですよね。砥ぎすましていくというか、減らしてくのが。どうやってあぶりだしていくんだろうなって思いました。下地を引いたりするんですか？

浦：
感覚としては二度絵を描いている感覚で、最初に色で表現して、その後に下にある色を削って浮かびあがらせていく。色を重ねていくのに線をひっかくと下の白がまた見えるところが面白い。
白で描いているけど、白で描いたものだけではなくて、削って残った色の部分が浮かび上がって見えるし、そうやって減らしてく色で表現しています。

濱田：
なるほど

浦：
きっかけは幼稚園の時。最初にいろんな色を塗って最後に真っ黒で塗って花火とか描きましょうという体験です。

濱田：
ありましたね！黒のクレヨンで一面に塗って、爪楊枝で絵を描くみたいなのをやった気がします。

司会：
この手法が定着したのはいつですか？

浦：
大学4年生の卒業制作をつくる時です。それまでは水彩とか色鉛筆とか色んな描き方を模索していたんですけど、クレヨンに出会って。クレヨンの色が水彩みたいに上手く混ざらないんですけど、混ざるようで混ざらないけど、混ざるところもある。
どんどん層になって重なっていくところが私の描きたいものと合っている気がして。それでその技法を思い出して、削ってみたらその下から思いもよらないような色が浮かびあがってきて、そこからどんどん突き詰めて描くようになりました。

濱田：
今この（制作中の）写真みたらちょっと指にすごい突き刺さって痛そうに見えます。(笑)
手は添えるくらいの感じなんですか？

浦：突き刺さってますね（笑）。でも手は添えるくらいの感じです。簡単に削れるので。今私はフィンランドで制作活動してまして、フィンランドの爪楊枝って両方とがっているやつなんですね。
使っていくうちに木なのでどんどん丸まってくる。それと新しいのと組み合わせて描いたりしています。

濱田：
ときどきへらっぽい動きをしてますよね、ねかせて描いてますか？

浦：
はい、ねかせて描いてます。
あと実際にへらで全体を一回削って全部無くしてしまって、またもう一回上から色塗ったり。何回か壊して、描いて、と繰り返すところもあります。

これ（作品「目/silmä」）がそうですね。
最初に他のと同じように全部描いてたんですけど、途中で廻りの部分をヘラみたいのでがががっと削り取ってしまって。
残った表面が面白かったので、もう一回爪楊枝で削りました。

司会：
色についてフィンランドの影響はありますか？

浦：
はい、フィンランドの風景にすごく影響を受けています。
日本と色の見え方が全く違う印象です。空の色とか水辺の色とか・・・こちらではあんまりみられないような色で。
日が長いので色の移り変わりがとてもゆっくりで綺麗なんですね。夕日の時間がすごく長い、そのピンクと青の時間が長かったりします。時の流れも、見えてくる色も全く違う。そこにとても影響を受けていて、なので色はとても大切にしています。特にテキスタイルを想定してつくっているので。テキスタイルもやっぱり色がすごい大切なんです。

濱田：
この三角形の作品(「夏の終わり/loppukesalla」）は、どうやってやるんですか？

浦：
ひたすら三角形を、ちまちまちまちま、線で描いてます。（笑）
フィンランドの夏の森の風景なんですけど、木々がこういう色の時間がすごい長くて、どんどん色が変わっていくんです。
そのまま風景を映し出すと言うよりは、見た風景の記憶を大切にしていて、見た時の感情とか、音とか、そういうものを表現しています。写生というよりは自分の中で見たものとか感じたものを取り入れて描いています。

濱田：
例えば写真で撮ったあとにそれを見て描くことは？

浦：
ほとんどないです。作品を描きはじめるきっかけとして、撮りためた写真を見返すことはあるんですけど。色の構成とか色を探す目的で写真を見ることはあります。　

濱田：
面白い写真の使い方ですね。

司会：
ドローイングからテキスタイルへ色をどのように展開させていますか？

浦：
原画の場合は見た色とか、表現したい色をもとに決めているんですけどテキスタイルで作る時はもっと自由というか。テキスタイルのいいところは同じデザインで何パターンも作れるところです。
あまり原画のテーマに縛られることなく考えます。季節に合せるとか。原画で使わないような色をテキスタイルでは使えるので、遊んで、あえて自分で使わない派手な色とかを選んで作ってみたりですね。

司会：
作品のキャプションにタイトル以外の言葉が添えられていますが。

浦：
最初に作る前に何となくイメージやキーワードのようなものを思い浮かべてからつくるのですが、ちゃんとした文章にしないで「ふわふわ」とか、そういう擬音を自分の中でまず最初に思い浮かべます。
そのイメージから描いていって、完成した後にタイトルと文章をつけます。
文章も自分の記憶から生まれているのですが、抽象的にすることで、他の人の記憶の中にもあるような部分にリンクして見てもらえたらなという思いがあって詩のような文章をつけています。

この作品のタイトルは「白フクロウ」です。白フクロウはフィンランドの北の地方にいる真っ白いふわふわしたフクロウなんですが、そのふわふわした感じと重なり合う感じを描いています。

濱田：
何年くらい前からフィンランドに住んでいるんですか？

浦：
9年前です。

司会：もともとフィンランドがお好きだったんですか

浦：
もともと留学には興味があったのですが、あまりメジャーな国には惹かれず。
テキスタイルデザインを勉強できる国を探している時にフィンランドにマリメッコがあるので、調べてみたらすごい自然が身近にあって。一度行ってみようということで大学在学中に2週間ほどホームステイした夏が天国のようだったんです。2週間毎日晴れていて。

濱田：
夏はどういう感じなんですか？

浦：
ちょうどいいですね。20℃～25℃くらいで。朝早くから夜の11時くらいまで明るい。
そこで制作して生活してみたいと思ったのがきっかけだったんです。
それが逆に冬は日照時間が少なくて朝の１０時くらいまで暗くて．．．。毎年冬は「なんでわざわざここに住んでいるんだろう」と思うんですけど、夏に「これ以上の過ごしやすい国はない」と思う、その繰り返しです。（笑）制作するにはすごくいい環境です。

司会：マリメッコの原画についてお聞かせください。　

浦：これ（作品「トラ/tiikeri」）はマリメッコの作品はたくさんシリーズがあって、その中でも自然の美しさがテーマだったんですけど、トラの力強さと影に潜む様子をイメージしているのですが、それを一枚の布で表現できたら面白いなと思ってつくったものです。ふつうテキスタイルは模様が続いていくのですが、これはアートピースというのですが、一枚のタペストリーのようになっています。

濱田：
どれくらいの大きさなんですか？

浦：
これが縦219×横144cmくらいです。

濱田：
でも　これつくってくれるってすごいですね。僕もこの作品が好きなんですけど、日本だとなかなかこういう（アーティスティックな）作品をテキスタイルにしてくれる勇者いないなって思っちゃう。面白いですね。みなさんどんな使い方をしているんでしょう？

浦：
パネル張りとか、そのまま飾っていただく感じです。

≪途中略≫

濱田：
ぜんぜん関係ないですけど、絵本とかかいたらいいんじゃないかなって思ったんですけど。

浦：ほんとですか。テキスタイルの原画としてはじめたのですがスクラッチ技法が自分にとってとても大切なんですよね。

濱田：
原画を展示してもいいし、テキスタイルもいいし、本にしてもいいと僕は思います。　アウトプットは周りにゆだねる方が意外と自分（らしい作品）だったりするんじゃないかなと。さっきの「トラ」とか、ああいう作品を本で見たいな、絵本とかいいな、と勝手な妄想をしました。　

浦：
おっしゃっていただいたように、写実の絵とかイラストの絵があまり上手でなくて、綺麗なお花の絵は素敵な作品をつくっている方が他にいらっしゃる。なので、私は自分の表現でいいかなっていうのはあって、結構間接的なやり方で描いています。

濱田：
なるほど。
トラがトラであるってことはその環境とか光とか影とか、色んな要素があってなってるわけで、どこをとって描くかとるかっていうのは僕たちの自由で、見る方も自由で。浦さんのおっしゃる通りだと思うんです。
僕はなんかそういう風にみえましたね。だから書かれているタイトルから感じるところもあるし。自分の違うように想像するならもう文字もいらないのかなと思っちゃう。僕は絵を見るなら絵しか見てなくて、興味が出たものだけ言葉も読む感じです。

浦：
ほんとにそういう感じで見ていただくのが、私も一番いいなと思っています。
言葉はきっかけでしかなくて、これはこういう風に見えるとか、あの時見たものに似ているなとか、こういう匂いのように感じるなとか。それぞれ思っていただければ一番いいなって思っています

濱田：
これ（新作の最後の作品）いいですね、これは下地に青、黄、緑ですか？

浦：
最初に塗ってるのは黄色と水色とか。
この下地はこの主に黄色とピンクと水色を塗って、最後にこの濃い緑みたいなもので全体的に塗って、削ったらこう出てくる感じなんです。この辺は水色も混ざっているんですけど、最後に塗った濃い緑の色も少し混ざっていて、この黄色も上に塗った色にちょっと影響している。クレヨンがその微妙に混ざり合ってつくられているんですね。

濱田：
面白いですね。

浦：
自分で一応最初想定はするんですけど、後はけっこう出てきたものに任せます。計算できないところがあるんです。最初色々計画して、こうなったらこうなるなどと考えて作ったら全然おもしろい絵ができなくて。私の性分にもあってなかった。なのでもう毎回その時の気分でつくってます。

濱田：
なるほど、あんまり決めすぎても面白くない。
散歩みたいな感じなんですね。