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  • 味噌はマジシャン

    インタビュー

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    味噌のルーツはしょうゆと同じ、中国から来た大豆の醤。『大宝律令』(701年)に「未だひしほにならず」の意で「未醤」という文字があり、そこから「味噌」へと変化したと言われています。奈良時代、正倉院には味噌漬けがあり、他に酢、酒、漬物もありました。『風土記』を見ると、水田やあぜ道に大豆があったのが分かります。日本の食の原風景ですね。
     味噌を食べていたのは朝廷や高僧など特権階級です。仏教伝来で肉食が禁忌となり、また農耕民族であった日本人にとって牛馬は家族同然であったため、動物は食べない倫理観がありました。そこで大豆からタンパク質を摂っていたのです。タンパク質は体に入ってアミノ酸になるスタミナ源です。和牛のタンパク質17〜18%に対し、茹でた大豆は16〜17%※。味噌汁は肉汁を飲んでいるようなものなのです。
     一般大衆が食べるようになったのは、平安末期から室町にかけて。全国に広まったのは、各地で大豆と米を作り、塩もとれ、原料が調達しやすかったからでしょう。環境や生活文化に合わせて、個性豊かな味噌が自然に生まれていきました。たとえば八丁味噌。米と豆を押さえれば天下が取れると言われた戦国時代、豆の産地である三河に武将が集結しました。八丁味噌は大豆と豆麹と塩で作る、高タンパクな肉の固まりみたいなもの。まさに天下取りのスタミナ源にもなる、栄養価の高い味噌です。味噌には歴史に関わるほどの力があるということです。
     私自身は信州や仙台など赤味噌系の、田舎味噌が好きです。なぜかというと豚汁が好きだから(笑)。味噌料理では何といっても魚のあら汁。金目鯛の頭と骨のブツ切りを味噌汁に入れてぐつぐつ煮る。生臭さが消え、金目の赤に豆腐の白が輝いてきれいじゃないですか。味噌はいいですね。栄養があるし、味噌漬けにすれば食べ物を腐らせないし、味もおいしく変化させる。朝昼夜と一日三食でも飽きない。そう、味噌はマジシャンですね(笑)。

    発酵学者・食文化論者 小泉武夫(こいずみたけお)/東京農業大学名誉教授、鹿児島大学客員教授。食の冒険家、味覚人飛行物体、発酵仮面等の異名を持つ農学博士。発酵文化推進機構代表。著書多数、日本経済新聞で『食あれば楽あり』連載中。

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