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プロの料理人が読んでいる情報誌

  • 冬は千枚漬、すぐき、かぶら寿司

    四季折々の漬物考

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     京都を代表する冬の名物「千枚漬」ですが、実際の販売は9月中頃から始まります。これは、運動会シーズンに合わせているということです。使用されるのは、聖護院かぶ・早生大かぶ。後者は9月中旬に収穫できるよう開発されました。3ミリの厚さにスライスして塩2.5%で二日間下漬したかぶを、四斗樽に一枚ずつ手で並べます。調味液を加え、小さく切った昆布をところどころに置き、冷蔵庫で三〜五日間熟成させ、昆布のぬめりが出たら完成です。1865(慶応元)年、新京極の「大藤」が元祖といわれます。幕末の志士たちも食べていたかもしれませんね。
     「すぐき」は生しば漬と同じく、京漬物で典型的な乳酸発酵漬物です。漢字では「酸茎」と書き、上賀茂神社周辺でのみ栽培される、かぶに似た野菜です。収穫は11月で、根部の皮をむき、葉茎とともに5%の塩で四斗樽に荒漬し、天秤重石をかけます。この様子は晩秋の風物詩でもあります。続いて本漬となり、二斗樽に移し替えて塩1%を加え、圧搾器に七日間かけます。さらに40℃の室に一週間入れて発酵させると、塩3%・酸1%の「すぐき」が完成します。「すぐき」は根部や葉茎を細かく刻んで、少ししょうゆを垂らすとすばらしい風味を醸します。使う調味料は塩のみという、伝統的な漬物「すぐき」です。
     「かぶら寿司」はなれずしの一種であり、加賀藩から将軍家へと献上された、正月にいただく北陸の郷土料理です。伝統野菜・金沢青かぶを厚さ3センチ程に切り、横から切れ目を入れます。これを塩4%で一週間漬け、5℃以下で一週間脱塩します。ブリもまた、同じく5℃以下で一週間塩漬にします。ついで米糀と米飯を混ぜてやや硬めの甘酒を作り、塩漬人参の細切りを合わせます。ブリを脱塩して酢締めし、かぶの切れ目に挟んで漬け上げます。甘酒・かぶ・甘酒・かぶと積層し、冷蔵庫で五日間熟成して完成です。高価な漬物で、贈答にも喜ばれます。私がいま日本の漬物のなかで、最も美味と思う漬物です。

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    前田安彦(まえだやすひこ)
    宇都宮大学名誉教授。全日本漬物協同組合連合会常任顧問。50年に及ぶ漬物研究のデータを集約した『漬物学 その化学と製造技術』(幸書房)、『新つけもの考』(岩波新書)など著書多数。

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